前回の記事で、7/19にNHKで放送された丸山真男特集について、「間違った説明は特になかった。基本的に正しい」と書いたが、一点、訂正が必要と思われる部分があり、気になったので触れておきたい。錚々たる面々が制作に関与していながら、これはどういうことかと首を傾げたが、番組では、丸山真男が卒業後に助手に進んだとき、自ら研究テーマを日本政治思想史に選んだという説明になっていた。自発的に、自らの問題関心で、過去(徳川期)の思想史の探求に踏み出したという整理が示された。番組の進行では、その前に例の一高時代の特高体験があり、それを契機に、本人が何らか日本の過去からの思想に問題意識を持ち、自ら積極的に研究を始めたのだと概説された。何も知らない者は、この「自然な流れ」に頷いてしまう。だが、これは全く事実と違う。そのことは、熱心な丸山真男の読者でなくても常識の範疇と言えるだろう。NHKの標準の教育番組なのだから、基本的な史実の紹介で誤りがあってはいけない。丸山真男が研究対象として日本の政治思想史を選ぶことになったのは、本人の希望や意志によるものではなく、師となった南原繁の勧告と指示であり、南原繁の計画と深慮によるものである。それはまさに、今日から振り返って、奇跡の英断の歴史だったと言えるのだけれど、そのときの学生の丸山真男にとっては、南原先生に困惑の課題を与えられて、渋々と取り組むことになった対象だった。