私は『坂の上の雲』のテレビドラマ化に反対の立場である。こうして放送が始まった以上、番組を見て楽しんで批評するしかないが、この作品は映像化するべきではなかったし、絶対にして欲しくなかった。それは何より、原作者の司馬遼太郎自身が、生前、『坂の上の雲』の映像化を頑なに拒否していたからである。このことは、
司馬遼太郎の読者であれば誰でも知っている。その理由は「軍国主義に利用される恐れがあるから」だった。この遺言は、司馬遼太郎が残した言葉の中でも重いもので、読者は重く受け止めるし、関係者もまた重く受け止めて当然だろう。私は、『坂の上の雲』がこんなに早く映像化されるとは思わなかった。誰が司馬遼太郎の遺命に背いて作品の映像化をアプルーブしたのか。NHK出版から出ているガイド本『スペシャルドラマ・坂の上の雲・第1部』を読むと、司馬遼太郎記念館館長の上村洋行が登場して、「なぜ、今、映像化に踏み切ったのか」について説明している(P.149)。上村洋行が、司馬遼太郎の著作権を管理する遺族側代表として、ドラマ化決定の責任者の立場で公式見解を述べている。だが、本当に許可を与えたのはこの男ではない。最終的に諾否の権限を握っているのは、夫人の福田みどりである。私は福田みどりに失望させられた。なぜ、司馬遼太郎の遺言に叛き、故人の意思に反して『坂の上の雲』の映像化を許可したのか。