ジャック・アタリの近著『21世紀の歴史』を読むと、その冒頭に米国は2035年までに没落するという予言が示されている。「2035年ごろ(略)アメリカ帝国は、市場のグローバル化によって打ち負かされる。(略)これまでの帝国と同様に、アメリカは金融面・政治面で疲弊し、世界統治を断念せざるを得ないであろう」(作品社 P.21)。アタリの予言が的中するとすれば、あと25年後に米国は世界を統治する支配者の地位を降りる運命になり、すなわち、北大西洋条約機構と日米同盟体制が崩壊した世界が出現している。アタリによれば、そのとき「世界は一時的に<�多極化>し、10か所近く存在する地域の勢力によって機能していくことになる」(同 P.21)。このアタリの世界政治の近未来予想は、われわれの感覚からしても特に奇異なものではなく、25年後にはNATOは消滅しているだろうし、それで構わないと欧州諸国の多数の人々が思っているに違いない。米国は衰退して世界の超大国ではなく西半球の大国となる。東アジアに住むわれわれはもまた、アタリに近いイマジネーションで国家の未来を構想すべきだし、その方が思考として現実的である。米国の世界支配が21世紀中ずっと続くなどという想定は非現実的な妄想だ。基軸通貨ドルの信認が崩れるとき、米国は世界に駐留させている軍事力をファイナンスできなくなり撤退を余儀なくされる。日米同盟は四半世紀後には確実に衰滅している。