週末、パンデミックの報道に接しながら、辺見庸の『
しのびよる破局』を読んでいる。現在、メキシコには私の本の出版の際にお世話になった一橋大学の加藤教授が赴任して滞在されているが、大丈夫だろうか。ETV特集で辺見庸の特集が放送されたのは今年の2/1だった。あのとき以来、私の中にはずっと辺見庸の語りの余韻が残っている。少なくとも、この3か月間は、あの番組の中で発せられた言葉の数々を反芻する時間が続いていて、客観的に最も正確で簡潔な表現を与えるなら、私は『しのびよる破局』に思想的に影響された人間になって毎日を送っている。辺見庸が私の関心の中心に来るのは、つまり夢中になるのは、これで二度目で、一度目はイラク戦争の開戦のとき、2003年の春のことだった。それから6年、その間に辺見庸は脳梗塞で倒れ、さらに結腸癌になって闘病生活を送った。辺見庸の説得力はさらに冴え、澄み光り、特にこの著書は、今の時代を生きる人間にとっての啓示の全てが与えられているように思われる。老いが成熟や完成になりにくい現在、辺見庸の老境は、見事なまでの果敢なダンディズムを示してくれていると私は思う。