今、菅直人が書いた岩波新書の『大臣』を読み返している。11年前の98年に出版されて、当時も世間で話題になって好評を得た本だった。菅直人の著作の中でも代表作になる一冊と思われる。あらためて読みなおして、憲法(特に統治機構論)と行政学を学ぶ上できわめて有用な入門書の古典だと感じる。読みやすくてわかりやすい。今年の春に大学の法学部に入学した学生は、ぜひ夏休みにこの本を課題として読んでいただきたい。そして、議院内閣制に関する基礎知識を身につけると同時に、民主党のマニフェストで打ち出された政府の意思決定機構改革の理論的な骨格や背景について参考教材にしていただきたいと思う。法学部の新入学生だけでなく、何かの幸運で刺客候補に抜擢された者とか、公募で偶然に採用されて衆院議員候補者の比例名簿の末端に名前を載せた者は、どれほど選挙運動が忙しくても、時間を割いて必ずこの本を熟読していただきたい。もう一つ思うのは、11年の時の流れである。この頃はまだ現実の政治や経済に対して理性で真剣に向き合う人間が少なくなかった。菅直人も期待を託せる良質な政治家だった。すべてが変わった。変わり果てた。今は、緊張感を持って現実に対峙している理性の存在をこの国の中に確信できない。