岩波「世界」の3月号に、湯浅誠の『社会運動の立ち位置-議会制民主主義の危機において』と題した論文が載っている。この号の特集は、「何のための『一体改革』か-税と社会保障を考える」で、宮本太郞、広井良典、峰崎直樹などを総動員、「一体改革」を左側から支持し翼賛する論陣を張ったものだ。「消費税増税で若者の社会保障を充実せよ」という政策主張を啓蒙する企画が組まれ、左側に根強い消費税反対論を切り崩す狙いの編集となっている。4年前、2008年4月号では、「格差社会と増税論議-『消費増税しかない』は本当か」と特集を組み、消費税増税に対して慎重な姿勢を堅持していたが、ここへ来てすっかり立場を変えたようで、増税推進派に旋回を遂げている。岩波の編集部も、「世界」の常連で重鎮である神野直彦も、4年の間に変節した。この情景は、20年前の「政治改革」を彷彿とさせるものだ。小選挙区・二大政党制に抵抗していた左側の市民を、この制度導入こそ日本の政治にとってバラ色のものだから賛成しろと、そう説得し誘導したのは岩波書店だった。岩波と朝日が「政治改革」の旗を振り、首尾よく左側の切り崩しに成功し、反対派を異端に追い詰め、「政治改革」への賛同を普遍的な国論にしたのである。「政治改革」を主導したイデオローグたちは、その功績で出世し、マスコミで活躍する権威になっている。