秦郁彦の中公新書『南京事件』には、「あとがき」で次のように書かれている。「日本が満州事変いらい十数年にわたって中国を侵略し、南京事件をふくめ中国国民に多大の苦痛と損害を与えたのは、厳たる歴史的事実である。それにもかかわらず、中国は第二次大戦終結後、百万を越える敗戦の日本兵と在留邦人にあえて報復せず、故国への引きあげを許した。昭和47年の日中国交回復に際し、日本側が予期していた賠償も要求しなかった。当時を知る日本人なら、この二つの負い目を決して忘れていないはずである。それを失念してか、第一次史料を改竄してまで、『南京大虐殺はなかった』と言い張り、中国政府が堅持する『30万人』や『40万人』という象徴的数字をあげつらう心ない人々がいる。もしアメリカの反日団体が日本の教科書に出ている原爆の死者数が『多すぎる』とか、『まぼろし』だとキャンペーンを始めたら、被害者はどう感じるだろうか。数字の幅に諸論があるとはいえ、南京で日本軍による大量の『虐殺』と各種の非行事件が起きたことは動かせぬ事実であり、筆者も同じ日本人の一人として、中国国民に心からお詫びしたい。この認識なしに、今後の日中友好はありえない、と確信する」(P.244)。「つくる会」の主要メンバーである秦郁彦ですら、26年前は殊勝にこう反省を言い、中国に謝罪し、南京での大量虐殺の事実を認めている。