ベアテ・シロタの『
1945年のクリスマス』を読んだ。GHQ民政局内部における1946年2月の憲法草案作成過程が生々しく描かれ、ドキュメンタリーとしてスリリングに再現されていて、興奮しながら一気に読み上げることができる。ご一読をお薦めしたい。この本は題名で損をしている。「1945年のクリスマス」、このタイトルの響きでは、本の中身がGHQの憲法草案の歴史を書いたものだと分かっていても、そのテーマのイメージが稀釈され、憲法とは無関係な私的なエピソードが綴られた本ではないかという予想に導かれやすい。この本を読む者は、基本的にベアテ・シロタが何者か知っていて、憲法草案起草に果たしたベアテの役割をよく知っている者だ。それらの情報はネットにも載っているし、憲法に関連した多くの記事や議論ですでに目にし耳にしていて、敢えて本人の著書を繙くほどの新しい発見があるのだろうかという後ろ向きな気分にさせてしまう。ベアテ・シロタの人物についても、すでに概略を知っていて、わざわざ自伝を読むまでもないのではないかという先入観を持っている。そこに、「1945年のクリスマス」という意外な題名が入って来ると、積極的に食いつこうという動機が心理的に殺がれてしまうのだ。ということが、どうやら私の中ではあり、結局、ベアテ・シロタの死と改憲の政治的土壇場という状況が切迫するまで、定価1748円の本を買って読むという行動を起こせなかった。