政治技術の観点からアベノミクスを捉えたとき、この狡知な手法の成功をひとまず認めないわけにはいかない。「アベノミクス」の語とその経済政策がなければ、半年間、安倍晋三が65%の支持率を維持することはできなかっただろう。政治戦略としての「アベノミクス」は、2001年からの「小泉改革」の手法を模したものだ。経済の再生と復活を掲げ、従来とは異なる大胆な政策を打つと言って国民の期待を高め、マスコミに宣伝させるやり方である。小泉純一郎は、郵政民営化以外はノーアイディアな、政策よりも政局で登場する党人派の男だったが、「小泉改革」という標語を掲げた途端、一気に人気が出て80-90%の支持率になった。政策の中身は、竹中平蔵によって格差拡大と「小さな政府」のネオリベ政策で埋められたが、「痛みに耐えて」のフレーズが大受けし、7月の参院選で圧勝、2006年までの長期政権を敷く。任期中、この政権はずっと「小泉構造改革」を旗印として掲げ続け、繰り出す諸政策を正当化、このシンボルを求心力にして支持を調達し続けた。政策の中身は別にして、6年間も政権を維持する原動力になったのだから、「小泉改革」の標語戦略は成功したと言えよう。「アベノミクス」の標語は、「小泉改革」の成功モデルを模倣したシンボルマークで、国民の景気回復への期待を吸収し統合するキャッチコピーである。