< 2022年9月 > | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 |
・ | ・ | ・ | ・ | 1 | 2 | 3 |
4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 |
18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 |
25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | ・ |
政治家としてゴルバチョフを回顧するとき、忘れられないのは、民衆との対話の姿である。映像を見ながら心底から驚かされ、感激させられた。ゴルバチョフは実際に民衆の中に進んで入って行った。歩いて抗議者の群れと対峙した。ロシアは決して(過去も現在も)治安のよい国ではない。そのとき、88年頃だったと記憶するが、ソ連経済はマイナス成長の縮小循環に陥っていて、深刻な経済危機に襲われていた。給料の遅配欠配が各地で相次ぎ、政府への国民の怒りが沸き起こっていた。ペレストロイカは国内経済の面ではうまくいかず、逆に経済全体の破綻と崩壊の様相を呈していた。
そうした民衆の不満と憤懣の渦の中に、ゴルバチョフは自ら飛び込み、自己の信念と方針について説得を試みていた。群衆と隙間なく身を接し、唾を飛ばし合い、揉みくちゃにされる状況で、自らを激越に批判してくる人々と対面した。路上で無名の市民を相手に喧々諤々の討論をした。警備も何もあったものではない。書記長だからソ連のトップである。激動の時期に、よくこの行動ができるものだと、テレビを見ながら私は興奮し、危険を顧みず対話の政治を行う指導者の勇気に感嘆した。ゴルバチョフは、まさにこうあって欲しいと願う政治家の像を見せ、若い私を魅了した。社会主義とは理想主義である。
POST FOR MEMBERS ONLY
バックナンバー 2022年09月分 会員登録するゴルバチョフが91歳の生涯を閉じた。年齢からすれば長寿を全うした人生とも言えるが、もっともっと長生きして欲しい人だった。最近も核兵器の問題について声明を出していたし、昨年末も、ウクライナ問題で米ロが緊張するさなか、対話の重要性を説くメッセージを発して注目されていた。世界政治における現役の要人であり、影響力のある政治家だった。重要な局面で大事な指摘や警告を発してくれる哲人であり、耳を傾けて意見を聴くべき老賢者だった。特に平和について頷ける発言が多かった。真摯であり、率直であり、世界の市民の意念が代弁されていた。
世界が民主主義体制と権威主義体制の二つに割れ始めている、と米欧西側は現状を定義し、自らの陣営を絶対的正義であると正当化する。そして、権威主義陣営と名指しした側(中国・ロシア・イラン等)を敵視して打倒と殲滅に血眼になっている。だが、世界の多くの国々とそこに住む人々(アフリカ・アジア・中南米)は、その概念と構図の埒外にあり、煽られる対立と緊張を不毛なものとして捉えている。けれども、西側が自画自賛して咆哮する「普遍的価値観」に対して、埒外で辟易としている人々の、政治的な意思や希望を代弁するリーダーがいない。西側のイデオロギーの説教に対抗する有力な言論者がいない。
POST FOR MEMBERS ONLY
バックナンバー 2022年09月分 会員登録する