< 2023年2月 > | ||||||
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開戦から1年の節目で思うことは、世界から平和主義者がいなくなったという事実であり、それへの悲嘆の気分だ。平和の価値が軽んじられ、平和へのコミットが失われている。アメリカ発の戦争プロパガンダが西側全域を覆い、人々の意識と態度を変えてしまっている。日本もそうだが、欧州のその変化が凄まじく、ユネスコ憲章の精神を根本から裏切って否定する人間に欧州人が変わってしまった。そのことに強い落胆と憤懣を覚える。20年以上前だろうか。筑紫哲也がベルリンのホロコースト記念博物館を訪ねて紹介した特集があった。歴史認識がどんどん右傾化する日本の状況に警鐘を鳴らしつつ、逆にドイツの方は戦争への反省を深め、加害と犠牲の歴史を忘れないよう真摯に努めているという平和主義の動きを伝えていた。
日本と欧州のコントラストが浮き彫りにされ、欧州の健全さに安堵を覚え、羨ましく感じられた報道だった。ドイツと欧州の市民の思想がどんどん9条的になっている。日本人が捨てようとしている9条の価値に欧州人が近づいている。私にはそう見えた。今、目の前の欧州はそれとは全く逆の空気の中にある。戦争主義に凝り固まった欧州人であり、冷戦期よりも猛々しく殺気立った、恰も第二次世界大戦前の欧州人だ。鉄と血だけが問題を解決すると、ザッハリヒに確信し断言したビスマルク的な欧州人だ。しかも、その戦争主義の最前列で旗を振り、目を瞋らせてロシアとの対決を扇動しているのは、見目麗しきお嬢様の皆様方ではないか。U.フォン・デア・ライエン、A.ベアボック、S.マリン、M.アンデション、K.カッラス、I.シモニーテ、G.メローニ。
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バックナンバー 2023年02月分 会員登録する松竹問題について、党執行部による除名処分を支持する声も上がっている。小林節ときっこだ。当初、いわゆる文化人たちが猛烈な勢いで党執行部を非難し、松竹伸幸への支持を連発する怒涛の動きが続いた。内田樹、山崎雅和、平野啓一郎、想田和弘、斎藤幸平、伊勢崎賢治、望月衣塑子、上野千鶴子、金子勝らである。ここへ来て、そのラッシュが一段落し、逆に松竹伸幸を批判するツィートが増え、除名を是とする側の押し返しが始まっている。少なくともネット世論の現状は両者拮抗という空気感にある。松竹伸幸は「(党に)付いてきてくれる文化人・知識人も一人だけ」と言い、きっこの存在を無視しているが、ネット空間でのきっこの影響力は決して小さくない。エッジの利いたきっこ発言の投擲は、ネットの左翼全体が雪崩を打って松竹伸幸側に転ぶのを防ぐ歯止めの役割を果たした。
今回は、日本共産党の得票数がなぜこの7年間で4割も激減したのか、606万票(14年衆)から361万票(22年参)までゴッソリ減ったのか、その理由について考えたい。最初に結論を言えば、答えは、間違った「野党共闘」路線に舵を切ったからである。9条と25条を守る革新護憲の政党のはずが、ずるずると基本政策を変え、日米安保容認の方向性を示し、10年前は言ってなかった新奇な政策(ジェンダー・マイノリティ・LGBT)を看板に押し出したからである。時代に迎合して党の基本理念を疎かにし、リベラリズムの党(アメリカ民主党日本支部)に変貌したからだ。さらに言えば、日本共産党の活動のイメージが暴力集団しばき隊の跳梁跋扈と重なる弊害が目立ったからだ。この10年間で組織のイメージを毀損し、従来の支持者が評価してきた嘗ての集団の価値を失ったからだ。
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■ 社会民主主義の斜陽と停頓 - 失望だったイタリアのその後
共産党という名前を捨て、民主集中制を撤廃し、純然たる社会民主主義政党に生まれ変わって出直せ、というのが、20年前の私の意見と提案だった。学生時代からの持論をブログ記事に整理した。その考え方がこの20年間で変化した理由の一つは、イタリア共産党のその後の失敗を目撃したからである。A.ネグリは「新しい民主主義」という概念を提唱していて、おそらくイタリア共産党が左翼民主党と名前を変えたのはその影響があるだろう。ネグリも齧って読んだけれど、正直、あまりピンと来なかった。率直に言って、これじゃあマルクスを超えるなんて無理だ、学問と理論のレベルが違いすぎるというのが感想で、ネグリとイタリア(および欧州左翼)の脱皮的模索の行方に悲観的になった。案の定、「オリーブの木」の末路と現在の欧州左翼の混迷は目を覆うばかりだ。
ネグリには経済学の理論がなかった(レーニンにはあった)。不十分だった。経済学の分析と体系と展望がないと、政治哲学だけではマルクスを超えることはできず、新しい社会構想と政治戦略の創出はできない。これが私の結論と不満である。ネグリの本は売れたが、今世紀に入ってからの欧州の社会民主主義の凋落と衰退は呆れるほどで、猛々しく威を張る米英のネオリベ・ネオコンの補完勢力となり果てている。彼らは見事にリベラリズムの徒に変身(変節)し、ソシアリストとしての本分を失った。アメリカに対する独立的気概も消えた。これが本当に社会主義思想を生んだ欧州のインテリの現在なのかと目を疑う。資本主義を解剖して批判する知性は消え、ピケティのように、貧困層には政府の給付で凌げばいいという腑抜けた政策論になった。むしろ、アメリカの方でラディカルな社会主義運動が出現している。
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バックナンバー 2023年02月分 会員登録する鈴木元が日本共産党に対して「歴史的限界のあるマルクス流の共産主義」を捨てろと要求している問題について、思想史的な観点から若干の論評を加えたい。実は私自身も、20年前にブログで党名変更の提案を述べていた前歴がある。私はずっと、田口富久治・藤井一行・中野徹三らと同系列の認識と主張だったし、79年の不破・田口論争以前から民主集中制には否定的な意見の若者だった。20年前なら、JCPが党名変更して正真正銘の社会民主主義政党として出直すのはメイクセンスだったと思う。党にはその余力があり、内部で論争して合意を成立させ組織再生に踏み出す体力を残していた。党員の平均年齢も若かった。現在はとてもメイクセンスだとは思わない。そんなことをやっている場合でもない。松竹伸幸の造反劇を歓迎し喝采している左翼は、あまりに平和ボケが過ぎていると苛立つ。
鈴木元の暴論の要求を聞いて想起したのは、ドイツのキリスト教民主同盟(CDU)とイタリアのキリスト教民主党(DC)である。キリストの名前を冠した政党だ。CDUは前メルケル政権の与党で、戦後ずっと社会民主党(SPD)と二大政党を続けてきた保守政党である。DCは、現在は中道右派連合に吸収された過去の政党だが、戦後一貫してイタリアの保守政権を担い、イタリア共産党による政権交代を阻んできた与党だった。ヨーロッパには他にもキリスト教の名前が付いた政党が各国に存在する。子どもの頃、西ドイツのCDUとイタリアのDCは一体どんな政党なのだろうと不思議に思っていた。どうせ冷戦の反共保守がレゾンデートルなのだろうから、日本のように自由民主党という党名でいいじゃないか、わざわざキリスト教という名称を用いる意味があるのだろうかというような、そんな謎の感覚だった。
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バックナンバー 2023年02月分 会員登録する鈴木元の『志位和夫委員長への手紙』を入手して読んだ。その感想と私なりの日本共産党新生の提言を書く。一読して、まず誤字脱字が多い。とんでもない間違い(事実誤認)もある。校正と校閲が杜撰だ。第七章の文中、丸山真男が帝大卒なのに二等兵で召集された理由について、「丸山は政府に批判的な論文を執筆したこともあって」と記述していて(P.187)、これには唖然とした。こんな事実はない。どこからこんな作り話を持ってきたのか。丸山真男が二等兵で召集された理由は、一高時代に治安維持法違反で逮捕された前歴があり、憲兵の監視下に置かれていた元思想犯(ブラックリストの身)だったからである。「政府に批判的な論文を執筆」などと、そんな事実はないしあり得ない。当時の論文は徂徠学二論文を含めて全て思想史研究で、現実政治を論じた作品などない。(写真は産経新聞)
こんなことは常識だ。政治や政治思想に関わる者なら誰でも知っている初歩的知識だ。あまりに非常識な虚偽を平然と書いていて驚いた。無知丸出し。本の編集者は松竹伸幸である。松竹伸幸が出版を急いだあまり、チェックが不十分だったと言えばそれまでだが、こんな重大な誤記に二人が気づかなかった点は異常で、読者として二人の知性を怪しむに十分な過失と言える。他にも幾つかあるが、誤記よりももっと重大な問題があるのでそちらを指摘したい。決定的な衝撃を受けたのは、やはり安保政策に関する部分である。こう書いている。
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