月ノ夜
第1章 夕暮れ時 転入生
私、宮迫深月が高校三年生の頃。
二学期の始めに、クラスに一人の女の子が転入してきた。
名前は確か、篠里アイ。
元から人当たりの良い性格らしく、彼女はすぐにクラスに馴染んだ。
だけど、彼女が転入してきて一か月程立ってから、私の暮らす街で奇妙な事件が起き始めた。
所謂、猟奇事件と呼ばれる事件だ。被害者は全員、私と同じ高校生。
だけど、その事件は決まって夜……それも、月の出ている夜にだけ起きていた。
曇りや雨、新月などで月が見えない日は、決まって何も起こらなかった。
だから、月が出ている夜に出歩かなければ良いと分かり、皆がそうすると事件はピタリと止まった。
……そのまま、何も起こらない夜が一週間は続いただろうか。
『このまま、事件が起こらなければ良いのにね』
と、母が言っていた。私はそれに相槌を打ちながらも、心のどこかでそれは無いな、と思っていた。
事件が止まって、九日目くらいだったろうか? 私は、飼っている猫に夜中、叩き起こされた。時計を見ると、午前二時だ。……こんな時間に起こさないでと、無言で猫に訴えたのを覚えている。
寝なおそうとしたけど、ダメだった。一度眠りから覚めてしまえば、余程寝不足でもない限り二度寝は難しい。
何か飲もうと台所に行った。けど、水しか無かった。
そういえば、寝る前に母が『飲み物が無くなったから、明日買いに行かなきゃね』と言っていた。……普通、飲み物を切らしたりするだろうか。食材ならまだ分からなくもないけど。でも、お茶すら無いのはやっぱりどうかと思う。
水を飲もうかと思ったけど、この時の私の気分は、お茶を飲みたがっていた。
私の家は住宅地の真ん中に立つごく普通の一軒家で、近くにコンビニは無いが、自販機はあった。
台所の窓から見てみると、曇っていた。月が出ている様子は無い。
その事に安心して、私は寝間着から普段着に着替えて、小銭を持って家を出た。
猫は、私を起こしたくせに自分だけ悠々と寝ていた。しかも、私のベッドで。