シングルファーザーの育児ノート
第8章 第八回(昭和五十年頃~)
雄太は小学校に上がっても、相変わらずヒーローだった。体格がよく、しかも専門的に武道を嗜んでいたわけだから、同級生で彼にケンカを売ろうとする者はいなかった。雄太も暴力を嫌ったから、彼のいるところ理不尽な暴力が幅をきかせることはなかった。そうした資質や礼儀正しさから、教師や他の父兄などにも評判がよかった。成績もよかった。彼は私との「あの」時間を確実に確保しながら、一日二時間は机に向かい、本も好きなようだった。
幾度もの「お仕置き」を経て、小三の頃には「切り替え」も見事なものだった。毎日の柔道の練習時には、本当にそのことだけに集中し、夜は全く別の淫らな小動物に豹変する。それは私以外の誰も知らない、雄太のもう一つの顔だった。それを本性と呼ぶのは間違っている。学校での顔も、道場での姿も、夜の肉体も、全てが彼自身なのである。それらは狂いなく共存していた。驚くべきことだった。
雄太は幼い頃から女の子にももてたようだが、遊びに行ったり、連れてきたりするのはもっぱら男の子だった。同学年の巧(たくみ)という男の子をよく道場に連れてきたが、彼が雄太をある種英雄視し、あこがれの目で見ていることは明らかだった。巧は色白で小柄で、多少ぽっちゃりしたからだをして、気が弱い感じだった。たぶん学校で雄太に守られたりもしたのだろう。小三の時、小一の弟の司(つかさ)という、これまた小柄で、こちらはやせっぽちの少年と一緒に、うちの道場に入門してきた。
雄太が柔道の時は柔道に完全に打ち込めるようになったのは、この頃からだろう。同級生が間近にいて、あこがれの視線で見ていることもあるが、柔道の腕自体が上達してきて、のめりこんでいったこともあるだろうと思う。ここらへんの感覚は、私の少年時代を振り返っても思い当たる節があった。
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NIGHT
LOUNGE5060