破壊と再生
第1章 序章:入学式
雪が溶け、春の匂いが風に混じると、生命は活力に湧き、それぞれの心に希望が芽吹く。誰しもがそうだ。どんなに荒れた国政の中に身を委ねる者であっても、こればかりは否定出来ないだろう。
そして、その希望は夏の暑さで、ある程度の勢いを使い、失速し、秋を迎える。秋は、頭を使う季節。紅く染まる葉が落ちて、浮かぶ水面を眺めながら、春に湧いた希望を振り返る。無くしたものは要らないもの。この時、手に残っているものこそが本物だ。
その本物を大事に、大事に持ち続け、厳しい寒さを越え、また、春が来るのを待つ。
これが一年。そのなかで、人は何かしらの、「思い出」と呼ばれる「本物に昇華した希望」を心の箪笥の引き出しに詰め込んで生きているのだ。
ある大学の入学式ー。
後ろから三番目の席に座り、学長が話す「将来を支える人材云々」の話をぼぅっと聴いている、整った顔立ちの一人の新入生、上沢惶牙も、その希望を胸のうちに秘めていた。それは将来だ。彼は将来の夢や目標をまだ見つけていなかった。将来の夢を探しに来たのだ。
とは言え、周りに座っている見ず知らずの若者達がこれから友達・ライバルになると思うと、気をはらずにはいられないものであった。
「なあ。」
惶牙は辺りを見回した。後ろの席の青年だ。
「お前、あんまりふてぶてしい態度とらねー方がいいぞ。」
(いきなり喧嘩を売ってるのか。良い度胸だ。帰り際、会場から出たら待ってろよ。)
殺気を込めた目で彼を睨み付け、また前を向いた。
(畜生。入学早々何なんだよ。)
学長の長い話が終わり、メガネで、いかにも偏差値高いですというような新入生代表が、くだらない抱負を述べて、入学式は閉会した。
(さっきのやつをボコボコにしてやる。)
後ろを向くと、最早、彼は居なくなっていた。惶牙は苛立つ気持ちを抑え、会場を出た。人の波にうんざりし、苛立ちが増幅した。と、会場の出口から見えるコンビニエンスストアの前に彼が一人の大柄な男と、先ほどの新入生代表のメガネと立っていた。
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