梨乃
第2章 小津基之と
放課後の教室に、木村梨乃は一人。
自席で、泣いていた。
もう散々涙を流し、まぶたをこすり、真っ赤に腫れている状態であったが、ふと油断するとすぐにまた涙が奥から溢れ出てくる。
こんな出したんだから、早く枯れちゃえばいいのに。
そう自分の体質だか性格だかへ文句をいっていると、いきなり教室の前のドアが開いた。
クラスメイトの小津基之が、ジャージ姿で入ってきた。
剣道部引退後も後輩に混じって練習しているらしいので、それが終って引き上げてきたのであろう。
どちらかといえば柔道ではないかと思うようながっちり筋肉質な身体であるが、それに似合わず顔は丸く幼く、優しい感じであった。
「なに、泣いてんだ?」
「泣いてない!」
梨乃は大声で否定した。
そして突然立ち上がると、小走りに小津基之の胸に飛び込んでいた。
そのまま抱きつき、腕をまわした。
「え」
小津はそういったきり、口を閉ざした。すっかり困惑したような表情であった。
梨乃は横を向き、彼の胸に耳を押し付けるように顔を押し当てた。
本当に聞こえてきたわけではないかも知れないが、ドキドキと高鳴る鼓動が聞こえたような気がした。
そう思うのは、以前に度々と、彼がなんだか自分に気がありそうな言動をしていたからであろうか。高木ミットと付き合っていることが周囲に知られたことで、彼のその言動はすっかりおさまってはいたが。
仮に彼が本当にドキドキ高鳴っていたとしても、それ以上に興奮していたのはむしろ梨乃の方であった。
抱きついたのは、泣いているのをごまかすため無意識にとってしまった行動であったが、それによる小津の気持ちを勝手に想像しているうちに、反対に梨乃の方が気持ちが高まってしまったのだ。
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