【moral】 /BL
第6章 覚醒。
瞳を開けると、稔が僕の顔を覗き込んでいた。ぽろぽろと溢れ出た涙が頬を伝い顎から滴り、僕の鼻先に落ちた。白い天井、白い壁、ここは病室?
「稔……?」
嗚咽を堪えて引き結んだ唇の横に小さな笑窪。最期に月に映った笑顔の頬にも小さな窪みがあったな、と包帯だらけの手を伸ばし頬の窪みに触れた。水滴に濡れた頬は温かかった。月に浮かんだ微笑には手が届かなかったけれど、再びこの温もりを感じている。僕はまだ、生きているのか…
「……案外、人間て丈夫なんだな……」
楽になれると思ったのに。僕の存在が消えたって誰も困らないだろう?蔑まれ、孤独に震え生きていくのは、辛い。束の間の幸せを胸に、全て終わらせたかった。元々いらない子だった僕なんだ。
「また、俺を置いてく気なのかよ!」
頬に触れる僕の指を掴み、稔が声を荒げた。どうして稔が怒っているのか、わからない。稔のためにも、きっと僕は消えた方がよかった。丁度、よかったんだ。別に僕がいなくなったって、稔には愛してくれる家族もいるし、たくさんの友達もいるだろう。僕とのことなんて「若気の至り」だったって、いつか恥じ入る時が来る。僕さえいなければ、稔は世間一般で言うところの普通でいられたに違いない。僕がいなくなれば、稔は普通に戻れたに違いない。だけど、僕には稔だけだったんだ。稔を失って、どうして生きて行ける?どうして生きている必要がある?手にしたものを失うことは、手に入らないものを想い続けることよりも何倍も辛かった。代わりなんて、とても見つけられない。
ガシャン!!
突然大きな音が響き、ゆっくり扉の方へ視線を向けると、姉が青白い顔に涙を流しながら立っていた。足元にはいけて来たばかりであろう花束が割れた花瓶とともに散らばっている。
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