【moral】 /BL
第2章 姉と義兄と、僕。
「初めまして、春樹くん。よろしく」
そう言って笑った義兄の笑顔が眩しくて、僕は瞳を反らした。家族との顔合わせとかで普段は行ったこともない高級なレストランに連れて来られ、酷く居心地が悪かった。少し困った顔をした義兄に「人見知りしてるのよ」と姉が耳打ちするのが聞え、両親が横から小さな声で僕を叱った。顔と顔を間近に寄せて笑い合う二人、義兄とは会ったばかりだと言うのに、何故か胸が痛んだ。
姉と僕とは10も歳が離れていたし、あまり一緒に遊んだ記憶もなければ共通の思い出なんてモノもないに等しい。家でもあまり会話をすることもなく、姉の婚約は寝耳に水だった。一人っ子の義兄は、僕と言う義弟ができることをとても喜んでくれて、なにかと話し掛けて来た。姉と義兄は同じ会社で働いているのだと言うことも義兄から聞いた。義兄の方が2年先輩で、面倒を見ている内に好きになってしまったんだ、なんて聞きたくもないことまで、義兄はこっそり教えてくれた。―――僕もあと10年早く生まれて、そして女性だったら……義兄は僕を選んでくれただろうか?
家系的に小柄の僕の家にやって来た背の高い義兄は、それだけで僕の羨望の的だった。姉よりも30cm近く背が高く、僕よりも15cm程高かった。中高大、会社に入ってからもバスケットを続けていると言うだけあって、すらりとした体は無駄な肉なんか微塵も付いてなくて、カッコよかった。義兄の存在感に圧倒され、僕は義兄の前に出るとろくに口さえ聞けなかった。僕の世界に突如現れた義兄は、色を失っていた世界に再び仄かな光を灯した。
姉の結婚式当日、親戚に葬式に出るような顔をしてると笑われた。姉を取られるのがそんなに寂しいのか、と。―――逆だ。義兄がこれで正式に姉のモノになってしまうと思うと、悔しくて、哀しかったのだ。
程なくして、姉が妊娠したと言う知らせがあった。
言いようのない虚無感と寂寥感に襲われ家を飛び出した僕は、あてもなく夜のネオン街を歩き、その晩生まれて初めて男に抱かれた。
生まれて来た子は男の子で、義兄に良く似ていた。
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