【moral】 /BL
第3章 稔。
フリーライターをやりながら細々と食い繋ぎ、寂しさを紛らわせるために見知らぬ男に体を預ける。病気とかトラブルとか、そんなのは怖くはなかった。別に死んでしまっても構わなかった。僕がいなくなったところで、誰も困りはしない。誰も悲しんだりしない。家を出て7年、一度も家族に連絡も取らず、会おうとも思わなかった。
その晩の相手は最悪だった。ネオン街の一角にあるラブホテル、いつも僕が使っている場所だ。部屋に入るなり、目隠しをされ手錠をかけられた。床に転がされた僕の体のあちこちを殴り、蹴飛ばし、ろくに準備もせずに突っ込まれた。悲鳴を上げれば上げるほど叩かれ、突き上げられ、いつか僕は気を失っていた。僕が目を覚ますと相手はすでに部屋を出た後で、痣のできた体にはシップや軟膏で処置が施されていた。事前にそんな物を用意してたってことは、いつもこんなセックスを相手に強いているのだろうか。のろのろと体を動かし衣類を身につける。ふと綺麗にベッドメイクされたままのベッドに目を向けると、ベッドカバーの上に一万円札が3枚。おかしくて、笑いと共に涙が溢れた。僕は一体何をやっているんだろう。潔く死ぬこともできず、自分を貶めて。破り捨ててやろうかとも思ったが、僕にはふさわしいのかもしれないと思い直してポケットに捻じ込んだ。
重く軋む体を引き摺るように部屋に戻る。2階建てのアパートの2階の隅が僕の部屋。休み休み足を持ち上げ階段を上り、部屋を目指す。早く横になって眠ってしまいたい。部屋の前に立ち鍵を開けた。不意に後ろから声をかけられ飛び上がりそうになった。
「春ちゃん……」
僕をそう呼ぶのは姉と、姉を真似た甥の稔だけ。振り返ると背の高いシルエットが月明かりに浮かび上がっていた。目を凝らしてみると、見慣れない高校の制服。僕より大分高い位置にある顔を見上げて息を飲んだ。義兄にそっくりな瞳が僕を見ていた。
「……稔?」
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