光る指先
第1章 弱みを握って
「ね、ねえ。野々村君っ」
「えっ? あ、伴条さん。こんばんは」
「あの、ちょっといい?」
「僕……ですか?」
「ええ、少しだけ時間が欲しいの。大丈夫かしら」
「はぁ……いいですよ。帰っても、ご飯を食べるだけで大した用は無いし」
「そう。じゃあ……上がってもらっていい?」
「はい。それじゃあお邪魔します」
夕焼け雲が消え、暗い夜空に変わる頃、泰氏は隣家の伴条亜希子に玄関前で呼び止められた。高校からの帰り、彼が駅前で亜希子を見てから既に二時間程経っている。どうやら彼女は友達と寄り道して帰ってきた泰氏を、玄関前でずっと待っていたようだ。亜希子は待ち疲れた様な、それでも彼を引き止められた事に、何処と無く安堵の表情で玄関の扉を開き、招き入れた。
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