連立の命(れんりのいのち)
第9章 [《第9章》
志保の心臓は悠一の身体に拒絶反応を殆ど起こすことなく生着して行った。
いくら姉弟とは言え異種タンパクとして認識し、なんらかの反応を起こすものだが、直人には不思議でたまらなかった。これも強い姉弟愛の成す技なのかと、今更ながらに志保の悠一への思いが、直人の胸を締め付けた。
日ごと悠一は元気を取り戻し、病室の中を歩けるようにまでなっていた。
悠一が窓の外を眺めていた時、ドアがノックされた。
「はい。どうぞ」
ドアの外には、上品な背広に身を包んだ三十代半ばの男性が立っていた。
悠一には見覚えのないその男性は、ドアの外で深々と頭を下げた。
「どなたですか?」
「私は、新庄健太と言うものです。このたびは取り返しのつかない事をしてしまい……何と言えば良いか……」
その言葉で、悠一には事の次第がやっと分かった。姉さんの加害者だ。
「どうぞ、お入りください」
悠一は、複雑な気持ちでその客を迎え入れた。憔悴しきっているその男性に、なぜか憤りを感じる事のない自分が不思議だった。
「もっと早く来なければいけない事は分かっていたのですが、どうしても来る事が出来ませんでした。本当に、申し訳ありません……」
「新庄さん、姉は何故死ななければならなかったのですか。僕には姉以外に家族はいませ
ん。姉は、この世でたった一人の僕にはかけがえのない家族だったのです」
新庄という男性は何も言わず、ただ黙ってうなだれていた。
悠一がふと見ると、うなだれている新庄の目から一筋の涙がこぼれていた。悠一は静かにうなだれる新庄に誠実さを感じた。
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