連立の命(れんりのいのち)
第10章 《第10章》
その後、臓器移植法は大きく変わろうとしていた。世界的な臓器売買組織が発覚して以来、日本国内ではさらに重大な事件が明るみに出た。
不法な移植で逮捕された立花は、脳外科医と組んで、さらに信じられない医療行為を行っていた。国内で先に移植され、立花が関わっていた二十三件の心臓移植に対し、不法な脳死判定が行われていた可能性が出てきたのだ。
通常、何らかの原因で脳浮腫を起こし意識が戻らない状態のとき、脳圧を下げるために全身を脱水状態に持って行く。しかし、脳死判定が下され、移植へ向けての準備がされ始めると全く逆の処置が患者には施される。
つまり、移植に用いる臓器を瑞々しく保つためには、脱水状態ではまずいのだ。そのため、いままでマイナスに保っていた体液管理を、移植のためにプラスにしなければならない。ここに、救命と移植のタイミングの難しさがある。
何処まで治療のために脱水を維持し、どこから移植に切り替えるのか……。
実際、脳死判定がされても、家族が移植に同意する前に、移植の準備には入れない。
家族は出来得る限りの治療を望んでいるはずだ。しかし、実際のところ、素人にはその治療段階がはっきり分からない。立花は、そこに手をくわえたのだった。
移植に同意を求める段階で、すでに移植の準備が行われていたという可能性が出てきた。
脳外科医にとっての脳死は、敗北である。今までその分野で違法行為が行われてきた事はなかった。しかし今回立花は、脳外科医と組んでいたのだ。実際どこまで適切な治療が行われていたのかも分からない状態であった。
病院における倫理判定は、現時点ではその病院に任せるしか方法はない。その結果、病院の中で、このような不法行為が行われていたのだ。これは、移植医療にとって大きなダメージとなる事件であった。
この事件をきっかけに、脳死だと判断された患者の家族は、医者自体の判断が信じられない状態になってしまったのだ。マスコミも責任ない記事をどんどん掲載し、さらに国民を不安に陥れた。
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