四月、誰もがソワソワした気分で何かを期待してしまう新学期。実際は何も変わり映えがなく、進級したという事実が残った新学期。昇降口へ向かう明に、桜の花は満開で微笑みかけているかのように見えた。
「おはよう。今年も一緒だぞ。」
背中を叩かれ一瞬ビクッとなった。香織だった。
香織とはこの高校へ通い始めてから知り合った。一年の時にクラスが一緒で、今年もクラスが一緒になった。
部活は僕と同じ軽音部に入っていて、良く喋り、友人も多くて性格も明るい。運動もそつなくこなし、成績は嫌みのないレベル。顔も中の上と言えば失礼にあたるかもしれないが、制服のスカートの短さもあってか、どこかおてんばなイメージを周囲に持たせている。
「明、今日は部活行くの?」
少し鼻にかかった甘い声が聞いてくる。
「なんで?」と、ふと聞き返す。
「別にぃ」
特別に、付き合っている訳ではないのだが、何とも言えない言葉の距離感にドキドキする。またこの感じが1年間続くのだ。
僕は正直授業があまり好きではない。というか、あまり成績が良くない。なので、たいていの授業中は寝ていたり、ボーっとしていることが多いのだが、幸いにも香織の席が近かったおかげで新学期当初は退屈しないで済みそうだ。