Love Story~斉藤一
第2章 「斉藤の調査」
この日の夜から、もうひとつの見廻り組が編成された。何故なら殺しがあったのはいつも夜だからだ。沖田総司に手紙を渡した斥候の山崎からの情報に寄れば、京都繁華街にある長州藩行きつけと噂されている酒場と、その近辺の宿屋付近で殺しが頻発している。そんな場所にあさぎ色の羽織を着ていっては、得られる情報も得られないだろう。たとえ新撰組の任務とはいえ、それは表向き個人的な余暇活動を装っていた。
新撰組3番隊組長、齋藤一は、数人の隊士たちを引き連れ、初めて長州藩行きつけの酒場「小伊勢」に入った。あまり酒を飲まず、また彼の持つ鋭い観察力はこの任務にはうって付けだったのだろう。座敷に上がった齋藤は仲間達と飲食を共にし始めた。店の女将が緊張した様子でお酌を始める。それもそのはず、新撰組だっていうだけで粗相があっては何をされるか・・・・。齋藤はそんな女将にこういった。
「女将、俺たちはここに仕事できているわけではない。そう緊張せずともよい。」
「やだわ、齋藤はん、そんなに緊張していますか?」女将はひきつった表情でそう答えたが、酌をするその指先は、少し震えていた。
「長州の者が同じ屋根の下にいるのでは、女将としては気が気でなかろう。やつらは俺たちがここにいることを知っているのか?」齋藤のこの台詞を聞いて、すっかり心情を読み取られいることを悟った女将は、観念したかのようにこう齋藤に告げた。
「ここでの争いごとを避けていただけるなら、本当のことをお話しします。」女将も手慣れたものだ。商いとなったら話は違う。そうきっぱり言った彼女は、このお店を守るためにそう強い口調で言った。齋藤は彼女の目を見ながらうなずいた。
「確かにそのもの達はここにおります。新撰組の者達がここに来ていることは、下の階にいる見張り役がすでに伝えていることでしょう。彼らはここのところしょっちゅうこの店に来てくださっているうちのお得意様でございます。なにやらうちの若い女の子に・・・といっても、そのうちの一人はうちが雇っているわけではないのですが・・こほん!たいそう気に入ったご様子でして、・・・」
「だから若いおなごは来ないで、女将さんがここにいるってわけだ!」他の隊士がその話を聞いて冗談混じりにそう言った。
「すんまへんな、若いもんはみな彼らにとられてしもうて・・・」
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