DEAREST
第5章 WEDNESDAY
「だーーーっ畜生っっ!!」
日も高く昇り、爽やかな風が吹き抜ける午後。
いつもならば昼食をとった後、さっさと教会から少し離れたこの木陰で、誰にも邪魔されることなく昼寝をしているはずだった。
ここ数日、普段滅多にしない考え事の所為で少し寝不足なラトは、気を休めようと早々に昼食を終えてやってきた…が…。
「…頭が変になりそうだ。」
静かな空間は余計に彼を悩ませていた。
人は弱い。弱いからこそ何かに縋りながら生きている。
その“何か”に裏切られたとき、人はまるで母親に置き去りにされた子供のように惑い、失った“何か”を探し求める。
中には己のみで生きることができる者もいるだろうが、それはほんの一握りの人間だろう。
殆どの人間が己の弱さを補うために“何か”を探す。ラトも例外ではなかった。
ラトの場合その“何か”というのは、今まで信じてきた自分自身の価値観である。
砕いて言えば、彼にとっての常識と言ったところだろうか。
兎に角、シルエの言葉によってラトが今まで信じてきた自分の考え方が打ち崩されたのだ。
ラトという青年は我慢を知らない。
解らないことがあれば、それがどんなことであっても答えを知っていそうな人やモノを見つけ出しては疑問を解消していた。
長い時間悩み考えるということが苦手なのだ。
羨ましいと思う反面それでいいのか、というのがラトを知る人間の彼に対する評価である。
兎に角悩むことが嫌いなラトは、とうとう痺れを切らし再び独房へ向かうことを決意した。
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