強行軍が祟ったのか、熱病に倒れたエフィを休ませた。
「無理をさせてしまったな、すまない」
エフィの手を握り、そう声をかける。
「ごめんね‥‥帝国軍が迫っているのに‥‥」
エフィの容態は少し落ち着いたようだが、とても戦闘できる状態ではない。
「安心して眠っていていいぜ」
「ありがとう‥‥」
そう言ってエフィは目を閉じた。
*
簡易司令室に、リームと各小隊長を集めての作戦会議。
「この渓谷前方の地形を活かして布陣する」
そして、前回戦功を上げた、両翼の弓兵隊指揮官のチャオとランテを副司令官代理として任命することになった。
「はーい♪」
「後方支援なら任せてね☆」
やや軽めの軍礼だが、堅いことは不要だろう。
二人とも女性ながら、弓の腕には目を見張るものがある。
チャオは傭兵、ランテは狩人として生計を立ててきたそうだ。
「伝令! 帝国軍接近中! 数刻後に交戦すると思われます!」
「総員戦闘配置! 帝国軍を迎撃する!」
渓谷を背にし、前面に槍兵隊、中央に本陣、本陣後方に弓兵隊を配置する。
帝国軍は、約2倍の戦力だが、地の利はこちらにある。
*
数刻後、伝令通り帝国軍が姿を見せた。
「帝国騎兵隊の突撃が来るぞ! 槍兵隊整列! 一歩も通すな!」
騎兵突撃を止めるのは槍兵整列というのが兵法の基本だ。
更に、激突前に弓兵隊が矢を射掛け、戦力を削ぐ。
それでも戦力差は否めない。
帝国側もこちらの前線に対し、矢を射掛けてくる。
所々突破してくる帝国騎兵。
「本陣剣兵隊は、突破してきた騎兵を包囲! 各個撃破!」
オレ自身も本陣の先頭に立つ。
「リームは上空から本陣の支援を! 弓に気を付けろよ!」
「任せなさい☆」
*
激しい攻防が、やがて消耗戦を呼ぶ。
「‥‥頃合いだな」
このままでは兵力差で押し切られてしまう。
「本陣で中央突破! リーム、ランテ、チャオも続け!」
「「「りょうかーい♪」」」
中央に戦力を集中させ、温存していた騎兵隊を前面に出して帝国本陣に強襲をかける!
*
だが、作戦通りに事が運ぶほど、帝国軍も甘くはなかった。
「な、なんだあれは‥‥!!」
上空に出現した巨大な隕石が前線に落下する。
「ばかな! 自軍を巻き込んでの大魔法だと!」
前面に出した騎兵隊は、帝国本陣の前衛部隊と共に消滅した。
「フハハハ! 我が名は帝国魔兵長ゲボルグ! アイザスの義勇軍ごときが、ずいぶんと調子に乗ったようだな」
義勇軍に動揺が走り、士気の低下を招く。
「リーム! オレを飛ばしてくれ! 早く!」
オレの意図を察したリームが滑空してくる。
「わたくしを連れてきて良かったでしょう?」
飛竜の脚を掴み、ゲボルグの元へと飛ぶ。
「うまくすり抜けてくれよ!」
行く手を阻もうとする帝国飛兵は、チャオとランテが撃ち落としてくれていた。
*
ここでもう一発喰らったら、義勇軍は瓦解する。
だが大魔法というのは、早々連発できるものではない。
「何をやっている! しっかり守らぬか!」
魔法の詠唱を中断し、帝国兵を盾にするゲボルグ。
「逃がすかよ!」
飛竜から飛び降り、帝国兵を切り伏せ、ゲボルグへと肉迫する!
「若造が!」
「‥‥くっ!」
ゲボルグの放った魔法の矢が肩口に命中するが止まるわけには行かない!
オレは『深紅の風クリムゾンウインド』を鞘に収めつつ、疾駆する!
「奥義‥‥瞬剣流星斬!」
踏み込んで抜刀一閃!
「ぐああぁぁっ! き、貴様‥‥!」
大きく切り裂かれるゲボルグだが、絶命には至らない。
肩口の傷が、オレの剣を鈍らせたのだ。
だがオレは、間髪入れずに追撃を繰り出している!
「我が輩にこれほどの傷を負わせるとは、何者だ‥‥?」
だが、オレの放ったトドメの一撃が空を斬っていた。
ゲボルグの姿がかき消えていたのだ。
瞬間移動テレポートか‥‥!
「今回の所は退いてやる、名を聞いておこうか」
どこからともなく、ゲボルグの声が響く、これも魔法か‥‥。
「アイザス義勇軍司令官ラサ、それがオレの名だ‥‥!」
「ラサ‥‥忘れんぞ‥‥!」
*
撤退する帝国軍だが、こちらにも追撃する余力はなかった。
「本国に伝令を‥‥帝国軍は撤退、国境の警備を頼むと」
伝令兵に指示を出す。
「ラサ、無理しないで。ひどい傷だわ」
「ありがとう、指示が終わったら休ませてもらうよ」
心配そうにオレ手当てをするリームに笑顔を見せる。
*
こうして義勇軍は、戦死・重傷が半数以上という被害を出したが、辛うじて帝国軍の撃退に成功したのだった。