戦後指示を終えて、ようやく休息を取る事が出来た。
「ラサも、これで任務達成よね」
「そうだな」
傷の手当てを受けた後も、暫く安静が必要なオレに、リームは熱心に世話を焼いてくれている。
今は二人きりだ。
オレは安静の身だがな。
「城に戻れば、しっかりとした恩賞が出るとは思うけど‥‥。その前に‥‥その‥‥」
「どうした? 歯切れが悪いな」
「わたくしからも‥‥褒美を取らせて差し上げますわ‥‥」
「それは光栄だな」
ベッドから半身を起こしたオレを、じっとみつめるリーム。
「わ、わたくしと‥‥こ、婚約なさい!」
突然の求婚、呆気にとられるオレ。
「き、救国の英雄には、当然の権利ですわ! そうすれば‥‥凱旋にも箔が付くというものですし‥‥」
いつもの調子でまくしたてようとして、尻窄みになるが、それでも視線は外さないリーム。
‥‥。
暫しの沈黙。
「‥‥嬉しいよ」
オレの言葉に、表情を明るくするリーム。
「一国の、こんなにも美しい姫君の求婚を受けるとは、本当に光栄の至りだ」
「ほ、褒めても何も出ませんわよ?」
真剣に言葉を選ぶオレに、少し安堵したのか、以前オレの言った台詞を返してくるリーム。
「だが、すまない‥‥ オレには心に決めた人がいるんだ」
‥‥。
再び沈黙。
瞳が潤むのが分かる。
「いずれは一国の主になれる二度とない機会をあげましたのに、きっと後悔しますわよ‥‥」
「そうだな‥‥」
苦笑するオレに抱きつき、口づけをするリーム。
そして、すぐに身を翻す。
キラキラとした雫が飛び散る。
「それはアイザスを救った英雄への褒美です! 今のは国のことを、政治のことを考えての申し出。べ、別に好きとかそういうのじゃないんだから‥‥!」
そのまま振り返ることなく、足早にリームは立ち去った。
*
翌日、オレの安静が解け、アイザス城への凱旋。
帝国軍を退けた義勇軍は、アイザスの民に暖かく迎えられた。
「義勇軍の働きには感謝している。望む者は、王国正規兵として取り立てよう。また、戦死者の遺族への恩賞も約束しよう」
登城した義勇軍を労うアイザス王。
「そして、義勇軍司令官ラサよ」
「ハッ」
名指しで呼ばれ、片膝をつく。
「そなたをアイザス将軍職として迎え入れよう」
「有り難き幸せ、粉骨砕身でアイザスに仕えます」
*
多額の褒美を受け取ったオレは、まだ体調の優れないエフィの見舞いへ向かった。
「出世したそうね、おめでとう」
「ああ、エフィの元にも辞令が来るはずだぜ」
オレは見舞いの花束を花瓶に移しながらそう答えた。
報酬もいつも通りの折半だ。
「まだ調子悪いようだから、無理はしないようにな」
「ええ、そうさせてもらうわ。貴方の傷はもういいの?」
「ああ、ほぼ完治したぜ」
肩を回してみせる。
「ところで、貴方がリーム姫の求婚を断ったって噂を聞いたのだけど‥‥」
「ん‥‥噂になってるのか?」
「何を考えてるのか知らないけど、噂が本当なら、随分と勿体ないことをしたわね」
「そうかもな‥‥」
苦笑するオレに、エフィは笑顔を見せたのだった。