春を掴んでみたい・生まれ変わってみたい
第1章 春が来たかもしれない(大チャンス)
栄治は小さな声で歌い始めた。
「春が来る♪春が来る♪ 俺にも春が来る♪ 静かな春♪ 熱い春♪ 俺だけの春が来る♪ 沈んでいた太陽が手招きされる方へ♪ 俺だけの春が来る♪」
2階にある自分の部屋の中で栄治は感慨深く舞い続けた。春よ、今までどうしてお前は俺に微笑まなかったのか。俺はずっとお前が微笑むのを待っていた。冬よ、立ち去るがいい。そして俺は春を受け入れよう、大きな心を持って春の日差しと柔らかさを受け入れよう。二度と戻らぬ寒い冬に追憶を寄せて。
うっすら目に涙を浮かべながら踊り続けていると、1階から母の声がする。怒っている。ヘタクソな歌を歌いながら部屋の中で暴れるな!とか。でも栄治はなんと言われてもよい。今の俺にはなんと言われても心に春を迎え入れるとか言っている。母よ、今しばし耐えるがいい。息子が春を迎えんがために、耐えるがいい。栄治の心は踊る。
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