SITIGMA Side-Koichi Vol.1
第2章 1
「幸一君、おとなりだから、いつでも遊びにおいでって言ったのに、ちっとも来ないよね。おじさんさびしいな」
また頭をさわられた。ぼくは動けないし、逃げられない。こわい。
たしかにおじさんは、あいさつに行ったとき、そんなことをぼくに言った。けどそんなの、ただのあいさつのうちで、本気なわけないってその時思ったし、今も思っている。
「……あの、でも、おじさん、お仕事忙しい……でしょ?」
ぼくは一生けん命言葉を探して、やっと言った。
「あれ、言わなかったっけ? おじさんは今、大学には週三日しか行ってないんだ。後のお仕事は家で、パソコンで本を書いたり、勉強したりだよ。けっこう家にいるんだ」
「でも……家でも、お仕事……」
おじさんはずっとぼくの頭をなでている。どうしていやそうにできないのか、ぼくにはわからない。そうすれば大人はみんな、こんなこと続けないのに。
「いつでもいいんだよ。夜中にお仕事することもある。夕方はね、けっこうひまだ。こうして、さん歩したりしている。幸一君もひまそうじゃないか。ずっとこんな所で一人でさ」
いつからぼくを見ていたんだろう。どうしてぼくにそんなにきょう味をもつんだろう。ぼくはとうめいなはずなのに。
「よかったら今からうちにおいでよ。晩ごはんまでに帰れば、大丈夫だろ?」
「え……あの……」
ぼくはおじさんの目を見ないようにもっとうつ向いた。大丈夫も何も、晩ごはんは冷凍してあるごはんと、おかずをレンジでチンするだけで、一人で食べる。だいたい六時半って、自分で決めているだけだ。お父さんかお母さんが帰ってくるのは、だいたい八時過ぎてからだ。遅いと十二時だって過ぎる。
ぼくは……ぼくはちょうど、一人ぼっちがかなしいな、って、思わなくていいのに、思って、かなしくなっていた所だった。遊ぶ友だちだって、ぼくが好きなわけじゃないし、他の子と入れかわっても、全ぜん関係ない。でもだれかと一しょのほうがいいなって思うから、ぼくは五時まではいつも、学校で遊んでいるんだと思う。おじさんの家も、自分の家に帰るより、一人で部屋にいるより、もしかしたらいいかもしれない。とにかくぼくは今つらくて、かなしい。
6
NIGHT
LOUNGE5060