SITIGMA Side-Koichi Vol.1
第2章 1
「めずらしそうに見るものなんてないだろ? 幸一君の所と、ほとんどつくりは同じだろうし」
おじさんはまた笑いながらそう言って、ぼくの頭の後ろから手を回して、ほっぺたをさわって、自分の方に引きよせた。ぼくはよろっとして、おじさんによりかかってしまって、あわてて肩をはなしてちゃんと立った。今までなら、他の人なら、きっとぼくはこんなことされたしゅん間、反しゃ的に体に力が入って、逃げてしまうのに。今日のぼくはおかしい。でも……いつものぼくがおかしくて、普通の小学四年生なら、こうなのかな。ぼくは普通じゃないから、普通がよくわからない。
「でも、本が一ぱい……うちにはこんなの、ないです」
「ほとんどお仕事の本で、おもしろくはないよ」
おじさんは笑いながら、ぼくの後ろに回って、ぼくの両肩に手をそえた。何でぼくにそんなことするの? ぼくはどうして逃げようとしないんだろう?
「……でも、マンガも……」
「ああ、好きなんだよ。幸一君みたいな子どもが好きそうなやつも。幸一君はマンガ好き?」
ぼくはうなずいた。でもうちにはあんまりない。おき場所がないし、お金もない。学校のみんなには内しょにしているけど、お母さんはおこづかいをほとんどくれない。外でごはん、食べてこいとか、買いもの、させるときだけお金をくれる。ぼくはそういうお金から、少しずつのこして、ためて、たまにマンガを買う。あとは立ち読みする。それでもあんまりおこられない本屋さんが近くにあるから。普通の本は、図書館で読む。
「幸一君が好きなのがあれば、かしてあげるし、まあここで好きなだけ読んでかまわないよ」
ぼくはすごくうれしいと思うと同時に、とまどった。そう言われても、たぶんぼくは自分からここに、遊びには来られないと思うし、何でおじさんがそんなことを言ってくれるのか、わからなかった。
「でも今はちょっとね。せっかく遊びに来てくれても、一人でマンガ読まれちゃつまらないしね。後にしようか。好きなのあるかな? どんなの好きか、聞かせてくれよ」
おじさんはぼくの両肩を押して、本だなの前に連れて行った。
古い、手塚治虫のやつから、今アニメではやっているやつまであった。
「好きなのある? どれ?」
おじさんの顔が、ぼくのまよこに来る。ぼくはきんちょうして、ろくにしゃべれなくなって、ただ、指さすだけ。
9
NIGHT
LOUNGE5060