甘い毒
第1章 プロローグ
「あんた本気で人を好きになったこと、なさそうだよね」
よく言われる。
東京のとある街のバーで、私は家に帰るのを惜しんで最後の一杯の赤ワインを飲んでいた。
私の隣に座っているさっき知り合ったばかりのこの男性客は、何杯目かのスコッチの水割りで随分と酔っ払ってきている。
「お姉ちゃんまだ22歳でしょ。大人の恋愛はこれからだって。」
「そうですかねぇ」
私は曖昧に笑って返す。
恋愛について、ここ何年かはあまり深く考えないようにしてきた。
それに向き合った時…
彼のことを思い出さずにいられないから。
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