不夏思議起端
第1章 びっくり箱の中身は
話を聞くと、夏目は探し物をしていたらしい。見れば確かに彼が座っている本棚には、業務用の大きな梯子《はしご》が立てかけられていた。
「とはいえ、なんで本棚の上にいるんですか先生…」
「まあいいや、おはよう。お茶出すからそれしっかり閉じて持っててね」
あぶないですよ、と付け足して夏目に言葉を投げかけたそらだったが梯子を伝い降りてくる夏目から返ってきたのは少し前に自分が投げかけた挨拶への返事だった。
「うわあスルー! でもいただきます!」
一瞬しょぼくれるそらだったが、【お茶】という言葉を聞いて動きが止まる。考えてみれば、先程まで焼け付くような暑さの下30分は歩いてやってきたのだ。そんな彼女の体は当然汗だくだった。つまり水分を欲している。
それゆえにそらは、夏目からの好意であろう言葉に嬉しそうな笑顔を浮かべ力いっぱい頷いた。
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