不夏思議起端
第1章 びっくり箱の中身は
「あ、それと…それ、その本、絶対に開いちゃだめだからね」
梯子を壁へ立てかけ、床に散らばっていた本を拾い集めながらそう告げた。【その本】とは、恐らく先程そらの頭上へ着地し、今は彼女の腕にしっかりと抱きしめられている書物のことだろう。夏目に忠告され、改めて視線を落とせば所々きつね色に色褪せ少々古びた表紙が目についた。
「これって一体なんの本なんですか?」
しかし、その問いに答えが返ってくることはない。夏目はといえば、未だ黙々と本を拾い続けている。拾っては腕の中に積み上げ、拾っては…の繰り返しだ。
『一人で出来るからそこで待ってて』
手伝おうかとしゃがみこんだ手前、そう言われた彼女はしゃがみこんだまま手持ち無沙汰に眺めているだけだった。しかし、忠告が余計に好奇心を煽ったのだろうか。自分の腕の中にある1冊の本が、そらは気になって気になって仕方がなかった。
(あぁ言われると、開きたくなっちゃうのが人間の本能だと思うんですけど…私だけ?)
そらが心の中でそう呟くと、拾い終わったのであろう夏目は屈んでいた体勢から腰を上げて立ち上がり、積み重ねた本を脚立の足元へ置いた。そしてそらのもとへ戻るなり、まるでそらの心の声を耳で聞き取ったかのように夏目は小首を傾げつつ口を開いた。
「…別に開いてもいいけど、」
しかし、その言葉はどこか曖昧だった。だが、気になって仕方がなかったそらは最後まで聞くことなく食いつく。
「え、いいんですか!?」
とてもキラキラした視線が自分へ向けられていることに気づき、夏目は少々困ったように視線をそらすと無造作に彼女の頭をくしゃりと撫でた。その突然の行為に一瞬呆然としていると、次の瞬間。夏目は本日初めてだと思われる程いい笑顔で告げた。
「呪われてもいいならね」
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