【結衣】新幹線痴漢
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発行者:重兵衛
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ジャンル:その他

公開開始日:2019/04/27
最終更新日:2019/04/27 23:23

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【結衣】新幹線痴漢 第1章 (1)東京出張無事終了

秋も終わりに近づき、コートが無いと肌寒さを感じるようになってきたある金曜日。

昼過ぎと言うには少し遅いが夕方と言うには少し早い時間帯、東京駅の新幹線用改札口の前で2人のOLらしき女性が会話を交わしていた。

1人は20代前半、ポニーテールのせいか、見ようによっては未成年にも見えそうなくらい幼く、アイドルのような可愛らしい顔立ちをしていた。

もう1人はその女性の上司らしく、少し年上で20代後半から30歳くらいだろうか、可愛いと言うよりも綺麗さの方が強い女性だった。

二人共タイプこそ違えど、魅力的な女性で通りすがりの利用客が時折振り返る程だった。

 

「じゃあ先輩、私は今日の新幹線で帰りますね」

「これがUSBメモリね。私からも課長に電話しておくし、貴女はこのUSBメモリさえ届けてくれたら大丈夫だから」

「はい。それくらいなら私でも大丈夫ですよ」

後輩らしき女性が笑みを浮かべる。

「そうね。頼むわよ。あっ、さっきお茶買ったんだけど、飲まないからあげるわ」

「いいんですか?」

「良いわよ。荷物になるし、どうせ新幹線の中で飲むでしょ?気に入らなかったら捨てて構わないから」

「せっかく先輩にいただいたんだから、捨てるなんて勿体無いです。私、ちゃんと飲みますよ。ありがとうございます」

「あら、可愛らしい事言うわね。とにかく、そのUSBだけは無くさないでちゃんと課長に渡してね」

「津田先輩」と呼ばれた女性も微笑む。

「はい。分かりました。先輩は東京で楽しんでくださいね」

「うん?」

先輩の顔が少し曇った。

「あっ、えっ、いや、別に・・・。あっ、じゃあ、そろそろ時間なので行きますね」

先輩と呼ばれた女性が怪訝そうな顔をした為、後輩は気まずそうに一礼すると、切符を改札に通してホームに向かって去って行った。

「大丈夫かしらあの子・・・」

先輩はそう呟くように言った。

しかしその表情はただ単に仕事の事を心配しているだけではないようにも見えた。

 

(せっかく東京に来たのになぁ・・・。でも仕事だし仕方が無いか)

結衣は某一流都市銀行の新入行員で大阪支店に配属されていた。

新入行員とは言え、もう入行して半年になる結衣は先程の先輩と東京本店への日帰り出張の業務を終えたばかりだった。

結衣にとっては初めての出張だったのでほとんどの仕事は先輩がこなしてくれて、結衣はほとんど見学しているだけのような状態だった。

それに、先輩と本店の行員だけで内々の打ち合わせもあり、結衣には長めの昼休みを与えられていた。

それでも日帰りで東京出張と言う慣れない環境で色々と気疲れする事も多くて疲れてしまった。

結衣の勤める銀行は大手ではあったが、そんなに厳しくは無かったので、自費であれば前泊や後泊して東京滞在を延ばす事も出来た。

しかし、結衣か先輩のどちらかが資料の入ったUSBメモリを大阪支店まで持って帰るという役目があったし、事前に先輩から「出張後に東京に残りたい」と言う希望も聞いていたため結衣が日帰りで大阪支店に戻らなければならなくなってしまった。

 

(まあ、とりあえず帰りは先輩もいないし、のんびり出来るかな・・・)

大阪から東京へ向かう朝の新幹線の中では仕事の前と言う事もあるし、先輩と一緒だったので、仕事の資料を見たり、それに関して先輩に質問をしたりで居眠りする暇は無かった。

と言っても結衣はほとんど見学で仕事のほとんどは先輩がするのだが、先輩は結衣にとって憧れの人でもあったので、結衣もついつい気合が入って真面目に色々質問してしまった。

 

しかし、帰りは結衣1人と言う事で気を使う相手もいない。

東京で遊べないのは残念だが、先輩が先に予定を入れてしまったのだから仕方が無い。

 

(あの噂はデマだったのかなぁ・・・)

結衣の先輩である、津田恵梨香には東京に彼氏がいると言う噂があった。

恵梨香は元々東京本店で勤務していたのだが、結衣が入行する1年前に大阪支店に転勤になっていた。

東京勤務時代から付き合っている彼氏がいて、大阪支店に転勤になった後もその関係が続いていて彼氏に会う為に頻繁に東京に行っていると言う噂だった。

その為、結衣は別れ際に先程のような挨拶をしてしまったのだった。

しかし、別れ際の挨拶の後に先輩が微妙な表情をしたのが引っ掛かっていた。

 

(今から彼氏に会うのにあんな浮かない表情するかなぁ・・・)

今から彼氏に会うと言う割には先輩の表情は暗かった。

 

(節電のせいかな?私が気にしても仕方が無いわよね。とりあえずこのUSBを持って帰らなきゃ)

先輩の表情が暗かったのは節電の影響で構内が暗かったせいだろう。

それよりも結衣には出張の資料の入ったUSBメモリを大阪支店まで持って帰ると言う重要な役割があった。

重要な機密事項が入っているのでメールで送る事は出来ないらしい。

(今時、USBで持って帰るくらいなら暗号メールとかで送れば良いのに、よっぽど重要な機密事項なのか、それともメールで送れないくらい重いデータなのかなぁ・・・。そもそもそんな重要なデータを私なんかに預けて大丈夫なのかなぁ・・・)

そんな事を考えながら結衣はそのUSBメモリをバッグの内ポケットに入れた。

 

 

(さて、どこに乗るんだけっけかなぁ・・・)

ホームに着いた結衣は自分の指定席券を見ると、「16号車15番B席」と書かれていた。

(16号車か、一番後ろだ・・・)

「のぞみ」は16両編成なので下り列車の16号車は一番後ろの車両だった。

既に結衣が乗る予定の新幹線は到着していたが、到着したばかりで車内清掃をしているのか、まだ乗る事が出来なかった。

(ふぅ・・・、遠いわ。新幹線って結構長いんだなぁ・・・)

結衣が変な感心をしながらホームを歩く。

(そういえば私の座席はB席だった・・・)

結衣が会社から支給されたのはB席の指定席券だった。

社用とは言え、まだ若い2人がグリーン席に乗れる訳もなく、会社からは普通車の乗車券が支給される。

結衣がこれから乗る東海道新幹線の普通席は3列+2列の5列シートになっている。

B席は3人掛けの真ん中の一番窮屈な席なのだ。

行きの新幹線では恵梨香と並びだったのだが、C席が空いていたし、2人ともあまり大柄では無いので窮屈な思いはしないで済んだ。

しかし、もし両側に人が来たら窮屈になってしまうかもしれない。

(先輩にAの券と替えて貰えば良かった・・・)

結衣がB席の指定席券を持っていると言う事は恵梨香がA席の切符を支給されているはずだった。

恵梨香はどうせ指定席券を取り直すはずなので、A席の切符を結衣が貰えば良かったのだが、お互いにそこまで気付かずに別れてしまった。

(まあ、先輩がキャンセルしていない可能性もあるし、キャンセルしていても誰も来ないかもしれないし・・・)

結衣はそう期待しながら、16号車に入ると自分の指定席に向かった。

 

(一番後ろの席なのね・・・)

16号車は15番までしかない。

つまり「16号車15番B席」とは一番後ろの席なのだ。

(ここなら人通りも少ないだろうし、ゆっくり眠れるかな)

幸い、結衣の席の窓側、つまりA席は空いていた。

(きっと誰も来ないわ・・・)

結衣はちょっとだけ浮かれながら頭上の棚に荷物を置くと、自分の席であるB席の自分側にコートを置き、先輩の座るはずだったA席に座った。

しばらくすると若いサラリーマン風の男性が軽く会釈をしてC席に座ったが、A席には誰も来ないまま新幹線は東京駅を出た。

 

結衣は先輩に貰ったペットボトルの蓋を開けると中のお茶を一口飲んだ。

(ふぅ・・・。これで新大阪までゆっくり出来るかなぁ・・・)

このままA席に誰も来なければ新大阪か、少なくとも名古屋まではゆっくり出来るだろう。

結衣はさらに何口かお茶を飲むと蓋をして前の網ポケットに入れた。

(もう上着も脱いじゃって良いかな)

車内は比較的暖かかった。

シホは上着を脱いで窓際のフックに掛けた。

(さすがにちょっと肌寒いかな・・・)

そう思ったシホは自分の身体を覆うようにコートをかぶせた。

そのコートは大学の入学祝いにスーツ一式と併せて両親が買ってくれたものだった。

大学から1人暮らしを始めた結衣にとっては、大げさに言えば、家族との絆を感じさせてくれるそのコートを気に入って使っていた。

それなりに高級な品なのだろう。傷む事もほとんどなく、使い続けられていた。

(今度のお休みが取れたら実家に帰ろうかなぁ・・・)

結衣はそんな事を考えていると、少しずつ眠気が出て来ていた。

(なんか眠くなってきたなぁ・・・。とりあえず名古屋までは寝られるかな)

中学高校とバレーボール部、大学でもチャラチャラしたサークルではなく、体育会系のバレーボール部に所属していた結衣は体力にはそれなりの自信があった。

それでも慣れない出張の疲れが出てきたのだろうか、結衣は寛ごうとシートを倒すと、すぐにウトウトしていた。

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