三毛猫は笑う
第1章 プロローグ
格好はまだ幼いが、表情は随分大人びていた。
男は、殺意も感じられない女の子を前に何故か身体が硬直したように動けなかった。
「すぐにすませるから許してね。」
黒猫はニャーと鳴くと男の腕から降りた。それが開始の合図。
一瞬のうちに男の手を掴み、捻ると男が言葉を発するより先に手を押した。
「くっ、ぐぁっ!!」
刺さった場所は心臓。後、30分もせずに男は息絶えるだろう。
一瞬で殺さなかったのは、苦しませて死なせるため。
「せいぜい、地獄で自分のしたことを後悔することね。」
身体を翻し何事もなかったかのように歩き始める。黒猫もその隣に連れ立って歩く。
「ねぇ、クロ。…私は死んだらどちらに逝くと思う?天国か…地獄か。」
黒猫はその質問に首を傾けるだけであった。
「そうね。あなたにはわからないわよね。決めるのは私達ではないもの。」
哀し気に目を伏せ大通りへと1人と1匹は紛れていった。
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