光る指先
第1章 弱みを握って
「あの人は、智之と……夫と結婚する前から付き合っていた人なの。小さい頃から知っている幼馴染。だから智之と喧嘩した時はいつも相談に乗ってもらっていたの」
「……でも、やっぱり結婚した後にあんな風に仲良く腕を組んで歩いているのはまずいんじゃないですか?」
その言葉に、亜希子の顔から微笑が消えた。泰氏が体験した事のない、妙に重い空気が流れているのを感じる。年下の高校生に諭され、動揺を隠しきれないのだ。
「……してるんでしょ」
「え?」
「あの男の人と」
「し、してるって?」
「その……セックスです」
一瞬目を合わせた亜希子だが、すぐに目を反らせた。答えなくても、その急激に変化した頬の色を見るだけで分かる。
「すごいですね。まだ新婚さんなのに……。それにこんなに大きな家を建てているにも拘らず不倫するなんて」
わざとらしく部屋を見回し、溜息をついた泰氏に、亜希子は握っていた拳を震わせた。
「ち、違うの。そういうつもりは全然無かったのよ。でも、彼が……」
幼馴染に責任を擦り付けるような言い回しで口を閉ざした彼女に、泰氏は内心で笑った。年上の亜希子よりも立場が上になっている事を確信する。
「いいですよ、内緒にしてあげても」
「内緒にしてあげても?」
「はい。一つだけお願いを聞いてもらえますか?」
「……そういう事ね。ええ、分かったわ。私に出来る事なら構わない。何か欲しいものがあるの? お金かしら」
内緒にしてくれるという言葉を聞いた亜希子の表情が明るくなった。幸い、夫の智之が会社を経営しているため金銭的には余裕がある。金で済む事ならば多少無理をしても構わない。幸せな家庭を続けるためには安いものだ。彼女はそう思いながら話を聞いた。
「いえ、それは……」
「違うの?」
泰氏は一呼吸置くと、唾を飲み込みながら亜希子を見た。
3
http://tira.livedoor.biz/