ワイバーンギフ
第1章 誕生前夜
「安全性については、理解しました。しかしネット漬けになる事に懸念を感じますが?どう思われますか?」
「将来的に、無線ラン中継機が一般販売されると、誰でもクラブハウスやスタジアム及び周辺施設に出入りできます。匿名性は皆無です。町の延長線上に存在すると言っていいでしょう。母親は子供を連れ戻しに、ログインできます。警察も介入可能です。強制的にログアウトも可能です」
「そうではなくて、ログアウトしたくない人々の発生に対する懸念です。彼らがログアウト出来ないような方法を見つけた場合…あるいは不法なログインをして、存在を確認できない場合です」
「仮定の質問にはお答え出来ません。ですが、将来に向けて研究しておくべき課題だと思います」
山際さんは、メモに目を落とした。彼は500人中唯一パソコンを開いていなかった。それは鞄の中にしまわれていた。
「彼らが町に出なくなる事は?」
「ログインして、飲食は出来ません。排泄も出来ません。食料品や飲料水も買えません。配送日数が有っても問題ない物だけです。スタート時は買物は出来ません。試合が観られるだけです。町から買い物客が消える事は有りません」
「ハッキングに関しては?」
「システムはクライムズの能登島秀彦が担当しています。ハッキングや個人情報流出には、クライムズで実績の有るファイヤーウォールが使われています。軍事用のウイルスにも耐えた物です」
「なるほど。質問は以上ですが…心配な事が有ります」
「何でしょう?」
「未確認な情報ですが、経済産業省の木曽川審査官と能登島秀彦さんに、無線ラン中継機の認可を巡って金品が動いたとして、特捜部が捜査を開始すると言う噂です」
私はカッとなってしまった。
「能登島秀彦はそんな事をする人物では有りません!」
「知っています。この噂には、付け足しが有ります…」
ホールに居る全員が息を呑んだ。
「…正保寺経済産業大臣が、無線ラン中継機の認可をしないように、事務次官に再三指示していたが握り潰していたと言う噂です。事実なら迅速な対応が必要かと思います」
山際さんはわざとリークしてくれたのだ。記者が集まっている場所で…。経済産業省の内紛なら特捜部は動けなくなる。その間に大臣と話を付けなければならない。
-私がやるから、君は続けなさいー
厚見社長はそう言って舞台のソデに消えた。
次話!
-第9話 木曽川審査官
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