熱く交わる吐息。
ぶつかり合う肌と肌を、濡らす汗。
□「はぁ、…っ、隆二…っ、///」
隆「……っ、□□…、ッ///」
ただ、夢中で求め合う。
そんな二人の間に、「気持ち」はない。
……だって。
あたし達は、恋人同士じゃないから。
□「…隆二、…気持ち良かった…。」
隆「うん、俺も…。」
事を終えた後、あたし達はぴったりと寄り添って、お互いのぬくもりを感じながら、眠りに落ちる。
いつものこと…。
でも朝が来れば、何もなかったかのように…
ただの仕事仲間として、一緒に働くの。
隆二とこんな関係になって、もう何年経ったかな…。
.
.
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臣「□□、おはよ。」
□「おはよう、臣。」
臣「あれ?香水変えた?」
その言葉に、ドキッとする。
□「うん、ちょっとね。」
今日は隆二の部屋にあった適当な香水を借りたから。
□「ほんとよく気が付くよね、臣って。」
臣「そう?」
□「うん。少ししか髪切ってない時も臣だけはいつも気付くし。」
臣「ははは、モテる男って感じ?w」
□「自分で言うなw」
臣「お前だから気付くんだよ。」
□「え…っ」
その言葉に、思わず固まった。
臣「なんて。モテる男だったこういうこと言いそうじゃない?w」
□「もう!やめてよ!///」
臣「あはははw」
……一瞬、ほんとにドキッとしたじゃない。
臣は無邪気に笑って、控室を出て行った。
□「……はぁ…。」
いつもあたしの心を乱す人。
あたしの心を掴んで、離さない人。
……臣はまるで、悪魔みたいだ。
隆「おはよーございます…。」
□「ちょっ、隆二…!」
隆「んー?」
□「寝癖、そのまま来たの!?」
朝見た姿のままで現れた隆二に、思わず小声で駆け寄った。
隆「うん。だってどうせヘアメイクしてもらうし。」
□「もぉ〜〜〜。寝癖は落としてきてくれた方がヘアメイクさんも…」
女「いいんですよ、今市さんはいつものことですから!w」
□「あっ、」
会話を聞いてたヘアメイクさんが笑いながら道具を並べてる。
女「さ、座ってください。まずは寝癖取りますからねw」
隆「はーーい。」
隆二のボンバーヘアに二人掛かりで水をかけてるところを少し後ろで見てると、横から腕を引かれた。
健「なぁなぁ、ちょっとええか?」
□「あ、健二郎くん。おはよ。」
健「お前今日暇?」
□「え?」
健「この間、一緒に釣り行ったやん?」
□「うん!」
初めて隆二と一緒に連れて行ってもらったんだよね。
楽しかった!
健「あん時におった俺の友達が、もっかいお前に会いたいねんて。」
□「えっ?」
……結構人数いたけど…、誰だろう?
健「良かったら飯行かへん?」
□「ごめんね、今日は臣の会食に同行なの。」
健「えーーーー、今週どっかで時間作ってやー。」
□「うーん、考えとく…。」
健「頼んだで!」
考えとく、とは言ったけど…
きっとそれって、そういう意味だよね…?
多少なりともあたしに好意を抱いてくれてるというか…そういうやつだよね?
だったら食事に行ったり思わせぶりな態度を取るよりも…最初から断った方がいいよね。
だってあたしは…、
岩「どうしたの、考え込んだ顔して。」
□「わ、岩ちゃん!びっくりした!急にドアップで覗き込まないでよ!w」
岩「ダメ?w」
いつもヌッと現れるんだから。
□「こんな綺麗な顔がいきなり目の前に現れたらびっくりするから。」
岩「またまた〜〜。俺の顔なんてタイプじゃないくせにw」
□「…っ」
岩「□□さんが好きなのはあのお顔だもんねぇ〜」
□「ちょ、ちょっと!///」
意味ありげに臣の方を見ようとする岩ちゃんを、慌てて肘でつついた。
□「何回も言ってるでしょ、あたしの気持ちは…っ」
岩「はいはい、秘密ね、秘密♡」
□「もうっ!///」
岩「ごめんごめん。また近々飲みに行こ、二人でw」
□「うん…。」
岩ちゃんはなんだかいつの間にか、あたしの恋の相談相手…、というか…なんかそんな感じになってる。
隆「□□、見てーー。ほら。」
□「あ、寝癖取れてる!めっちゃカッコ良くなってる!w」
隆「でしょー?」
□「なんで隆二がドヤるのよ。ヘアメイクさんのおかげでしょw」
隆「へへっw」
さっきまでの姿が嘘みたいに「今市隆二」が完成した。
隆「ほんとにカッコイイ…?」
□「うん、すっごくカッコイイよ!」
隆「……臣とどっちがカッコイイ?」
□「…っ」
そんなことを耳元で囁かれて…
あたしの視線はまた嫌でも臣を見つめてしまう。
隆「はいはいw」
聞かなくても答えはわかってる、と言いたげに…
隆二はあたしの頭をポンポンと優しく叩いて、スタジオに向かった。
……意地悪///
臣「あ、やべ、□□、これ持ってて!」
□「えっ、あ、うんっ、」
咄嗟に渡された、臣の私物のアクセサリー。
ヘアメイクを終えて世界一カッコ良くなった登坂広臣は、颯爽と6人の元へ歩いて行って…
真ん中で優雅にポーズを決めた。
女「やっぱり7人揃うとカッコイイよねぇw」
男「うん。ソロショットより7人のショットの方が見てるの楽しいw」
女「なんか迫力が違うもんねw」
スタッフはみんなため息混じりに、ライトを浴びる7人を眺めてる。
うん、あたしも。
7人の撮影って大好き。
ほんとカッコイイんだもん。
男「はいOKです、お疲れさまでーす!」
一旦休憩になって、みんなはゾロゾロと控室へ。
直「ねぇ、□□さー、近いうちにどっかで時間取れない?」
□「え?」
直人くんが焼肉弁当を頬張りながらあたしを見た。
直「この間一緒にゴルフ行ったおじさまがさ、今度□□連れてきてほしいって。食事でもどうかって。」
健「えーー!あかんで!こっちの方が先やからな!」
直「え?」
健「俺の友達も□□と飯行きたい言うてるんすよ。」
直「マジか!」
臣「お前、モッテモテじゃんw」
□「……。」
臣は相変わらず、興味なさそーーに笑ってる。
岩「□□さんはほんと男ウケいいんだよねー。美人なのに気さくで人懐っこいから。」
隆「うん。スタッフもみんないつも言ってる。□□はほんと愛されてるよ。」
□「ちょ、何なのみんなして…何も出ないけど///」
いきなり持ち上げられて、リアクションに困っちゃう。
隆「あはは、照れてるw」
□「もう、からかわないでよー///」
笑いながらあたしのほっぺをツンツンしてくる隆二。
直「モテるのに男作んないからみんなに狙われんだよw」
健「直人さんのおっさんより俺の友達の方がオススメやで、□□!」
直「おっさんって…!あの人一応社長だぞ!w」
健「俺の友達かて結構稼いでますよ!」
岩「はいはいはい、□□さんがそーゆーの全部断るのはみんな知ってるでしょw」
□「…っ」
岩ちゃんがフォローしてくれて、その場はなんとか流れたけど…
臣「なんで全部断んの?いい加減、彼氏作ったら?」
臣は相変わらずあたしをバカにしたように、笑った。
□「うるさい。」
臣「そしたら少しは色気出るかもよw」
□「うるさいって言ってるでしょー!///」
余計なお世話だっつーの!
臣「大福のためを思っての助言なのに。」
□「結構です!!」
それから撮影は無事に終わって。
予定通り、夜は臣をスポンサーとの会食に連れて行った。
今日のスポンサーは、臣がちょっと苦手な人。
一言に社長って言っても、いろんな人がいる。
すごく温厚で、物腰柔らかな人もいれば…
「俺は社長だ」と言わんばかりに威張り散らしてるだけの人もいる。
今日の社長は後者で。
ずっと自慢話ばかりが続く中、食べる料理なんて、美味しいわけがない。
お酒だって無理やり飲まされて。
あたしは相手の気分を害さないように、最大限、臣のフォローに徹した。
臣「今日はありがとうございました。」
男「はっはっは!楽しかったよ!じゃあまた!」
上機嫌で車に乗り込む社長を見送って、あたしもすぐに車を回した。
□「お疲れ様。」
臣「はぁ…、マジで疲れた…。」
臣は深いため息をついて、後部座席に乗り込んだ。
臣「ほんと苦手、あの人。」
□「うん。」
でも向こうは臣がお気に入りなんだよね。
臣「……でも…、□□が一緒だと、一番落ち着く。安心する。」
□「え…?」
臣「俺の現場、もっと優先してよ。」
臣にそう言われると、やっぱり嬉しくて…
いつもドキドキしてしまう。
□「あのねぇ、それみんなに言われるw」
臣「あははは、やっぱモテるな、お前w」
……本当はあたしだって…、ずっと臣といたい。
臣「あ、マリアも終わったって。拾ってー。」
□「……うん。」
ルームミラーで臣をチラッと見ると、携帯を見ながら嬉しそうに笑ってる。
そしてすぐに、甘い香りが車の中に充満した。
マ「臣、お疲れさま。」
臣「お疲れ。」
マ「……会いたかった…っ」
臣「…っ、どうした…?」
マ「何も言わないで…。」
見たくもないのに、見てしまうルームミラー。
マリアさんは臣に抱きついて離れない。
どうしたんだろう、珍しい…。
今までの彼女と違って、マリアさんはあまりそういうことをする人じゃないのに…。
臣「もうすぐ出発だもんな…。寂しくなった…?」
マ「……うん、ごめんね…。」
臣「いいよ…。」
そう言ってマリアさんを抱き寄せた臣の声は、すごく甘い…。
臣「マリア…?」
ズキッ…
……いつもそう。
臣の声が他の名前を呼ぶだけで、あたしの胸は、痛くなる。
マ「なぁに…?」
臣「会いに行くから、な?」
マ「……うん。」
それから二人は何も話さなくて…
でも、しっかりと手を繋ぎ合っているのだけは、わかった…。
車はすぐに臣のマンションに着いて…
□「お疲れ様。」
あたしが窓を開けると、
臣「さんきゅ。お疲れ。」
臣はいつも、笑ってコンと、フロントガラスを叩く。
マリアさんは少し元気が無くて、あたしに小さく頭を下げると、臣に腰を抱かれたまま、中に入っていった。
□「……。」
マリアさんは、もう少しで日本を離れる。
2ヶ月間、LAで仕事するらしい。
寂しくて絶対に我慢できないって…臣がぼやいてたっけ…。
□「……はぁ…。」
……なんか…疲れちゃった…。
会食ってすごく気疲れするから、苦手…。
……臣は今頃…、元気がなかったマリアさんを慰めてるんだろうか…。
どうしてあたしの頭はいつも、臣のことばかり考えてしまうんだろう。
……このまま一人で家に帰るの…やだな…。
……プルルルル…、プルルルル…、、
隆「もしもし?」
□「…っ」
すぐに出てくれる、優しい人…。
この声を聞くだけで、すごく安心する…。
隆「おいで…。」
□「……うん…。」
何も言わなくても、わかってくれる…。
あたしはすぐに、車を隆二のマンションへと走らせた。
今日は久々に自分の家に帰るつもりで、隆二にもそう言ってあったのに。