連立の命(れんりのいのち)
第9章 [《第9章》
「夢の中の私は、サファリパークで働いているの。動物たちがとてもかわいくて、眠るのが楽しみなの。毎日夢が続くのよ。信じてくれないだろうけどね。朝目覚めると、とても気分が良くなっているの。動物って、すごい力なのね」
雅治と悠一は、すぐにその夢の原因が分かった。ユンカだ。ユンカが倖に力を送っているに違いないと思った。
「へえ……サファリパークか。何だか全く違う世界だね」
悠一と雅治は、倖が話しやすいように一生懸命話を聞いた。
「私は、飼育員なの。ライオンの赤ちゃんがとっても可愛いの。像やシマウマ、キリン。たくさんの動物たちに囲まれて、とても幸せな気分になれるの」
雅治は確信した。ユンカはパックスと同じように、辛くてくじけそうになっている倖を勇気づけている。なんと優しい姉弟なのだろうと。そして、義姉と一緒に、ユンカとパックスの母親に会いに行こうと、この時決心した。
「義姉さん、僕も話したい事があるんだ。信じてくれるかどうか分からないけど、話したいんだ」
倖は何? と言うように首をかしげてじっと雅治をみつめた。
「実はね、僕もずっと前から夢を見ていたんだ。移植をするために手術台に上がった時から……」
倖は一瞬雅治の言っている意味が分からなかった。
「えっ? どう言うことかしら……」
雅治も、倖に早く話したくて焦っていた。
「どこから話したらいいのか分からないんだけど、僕が移植後の拒絶反応で生死をさまよっていた時、夢の中でパックスって青年が僕に走る事の心地よさを教えてくれたんだ。生まれて一度も走った事のない僕を、思いっきり走らせてくれた。夢の中での出来事なのに、なぜかリアルで、走った後のけだるい心地よさまで感じられたんだ」
倖には、それでも、すぐには事の次第が理解出来ない様子で、首をかしげてじっと聞い
ていた。
「拒絶反応が苦しくて、死んだ方がましだと思っていた僕は、その夢を見て移植したのだから走れるかもしれないという事実に気がついた。そして、生きたいと思ったんだ。自分のために……」
雅治は、静かに諭すように倖にそう言った
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