連立の命(れんりのいのち)
第9章 [《第9章》
悠一と雅治は倖の次の言葉を根気強く待った。倖は大きな目から涙をポロポロ流しながら、言葉を探していた。
「なんて残酷な、なんてひどい事なの。私は今すぐこの心臓を取り出して、ユンカに返してあげたい。本当は私が死んでいたはずなのよ。ユンカは毎日動物たちと一緒に楽しく仕事をしていたのよ。あんなに幸せそうに、あんなに楽しそうに……」
倖はその場に崩れ落ちた。あまりの衝撃に立っていられなくなった。
悠一と雅治も、そんな倖に何と言葉を掛けて良いのか分からないまま、じっとしていた。最初に口を切ったのは雅治だった。
「義姉さん、辛いね。僕も辛かった。でもね、僕たちは生きているんだよ。この命は、大切にしなければいけないと思う。パックスも、ユンカも、優しい姉弟だと思わないかい?僕は、彼を心から尊敬しているんだ。僕に恨みを抱いても仕方ないのに、僕を夢で励ましてくれたんだ。僕に頑張れって言い続けてくれたんだよ。だから、辛い拒絶反応にも耐えて、今僕はここにいるんだ」
倖は雅治をじっと見つめた。
雅治は続けた。
「そして、ユンカも同じだよ。今、義姉さんを一生懸命励ましているんじゃないのかな。ユンカが、姉さんを恨んでいるのなら、きっとそんな楽しい夢を見せてはくれないと思う。姉さんの心を夢で癒して眠らせてくれているんだ」
倖はじっと左胸を押さえながら雅治の話を聞いていた。ユンカは夢の中で、確かに自分を癒してくれていた。ライオンの赤ちゃんがやっと生まれた時の感動や、像の赤ちゃんの生育記録。ユンカの毎日を日記のように教えてくれていた。それも感動した事ばかりを。 倖は何かが自分の中で急速に変化して行くのを感じていた。このままではいけない。自分に心臓を提供してくれたユンカのために、それがユンカの意思ではなかったにせよ、今自分がここにこうしている事は事実なのだ。
倖は、やっと話し始めた。
「雅治君、私、ユンカのお母さんに会いたい。ユンカはきっとお母さんに会いたくて仕方なかったと思うの。なのに、さよならも言えないままに死んでしまった。きっと、無念に違いなかったと思うの」
雅治は、義姉の言葉が嬉しかった。やはり自分たちは義姉弟なのだと感じた。
127