妖怪伝奇帖~浅篠原陰陽師秘録~
第1章 第壹幕「亊之始」
「は? おい綾嶺(あやね)、今何と言った?」
『何って……“今度の仕事は妖怪退治だ”ってはっきり言ったよ、私は。』
“妖怪退治”……だと?
「……厭、一寸待て。確かにオレは陰陽師だ。お祓いも占いも祈祷もやるが、妖怪退治はちょいとお蔵違いじゃないか?」
『何言ってるんだ。近頃仕事が来ないから、探偵紛いのことして細々と食いつないでた癖にさ。』
「ぐっ……」
実に痛い話だ。だが全くもって事実である。最近その探偵紛いの仕事すら尽きてきて、そろそろ覚悟の決め時か、などと思案していた矢先の依頼である。此方としては真っ先に飛びつきたいところではあるが、何せ内容が“妖怪退治”である。
「そんなの、何時の時代の陰陽師の仕事なんだか……」
『まあ、家と事務所ぐらいは無条件で用意してやるさ。』
流石は大財閥の令嬢、侮れん。今頃、受話器の向こうでは、“此位安いものだ”とほくそ笑んでいるに違いない。
『何なら学費と使用人も付けてやろうか?』
「はあ、其処まで好条件なら飲まざるを得ないな。」
まあオレとしては、家が付いて来るだけでも十分なんだが。……厭待て、今“学費”とか言わなかったか?
「なあ綾嶺、“学費”とは何だ?」
『学費?……ああ、アンタの大学の学費だよ。』
まあ、助かる話ではあるな……厭々、今年の分は払った筈だぜ。
『実を言うとな、今度の現場は浅葱市なんだ。』
「浅葱市……ってオレの地元じゃねぇか!」
『ああ。けど長期契約になりそうなんでね。此方に移住してもらう。大学も近いし、丁度善いんじゃないか?』
成る程、突如として此奴から依頼が飛び込んできたのも判る気がする。様々な状況を鑑みてくれたのは不幸中の幸いだが、真逆長期契約を喰らうとはな。
「詰まり何だ、来年以降の学費は其方持ち、って事か?」
『然う言う事になる。』
「両親との交渉は?」
『今回ばかりは父上も大賛成でね。“善い結婚相手が見つかった”とさ。』
「はあ、気の早いお父様なことで……って一寸待てオイ!」
何故オレがこんな奴と結婚しなければならないのだろう。ハッキリ言って理不尽だ。確かにコイツはオレ以外に付き合いを持たない奴だったし(今でもそうだが)、お見合いしたところで相手の方が先に数秒で砕け散る様な奴だ。他に相手が居ないのは判るが、重役も重役、程々にして
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