禁断の純愛
第1章 子供の頃
お兄ちゃんは
いつもあたしを守ってくれる。
小さい頃からずっと…ずっと…
あの男に殴られても蹴られても
あたしが泣くからって
お兄ちゃんは笑ってんねん…
いつもあたしの前では笑ってんねん…
それでも我慢できんくて
あたしが泣くと
いつもあたしのほっぺを
優しく包んで
「お前は笑ってろ」
って…
「兄ちゃんはお前の笑顔が好きやねん」
って…
優しくそう言ってくれる。
お母ちゃんが
なんであんな男と結婚したんか
あたしにはわからん。
お母ちゃんはただいつも
ごめんな、ごめんなって…
そればっかり…
あの男さえいなくなれば…
お母ちゃんもお兄ちゃんも
みんな幸せになれる…
あんな奴おらんくなったらええねん。
あたしは毎晩
寝る前、神様にお願いをした。
あの男がいなくなりますように。
あたしらの前からいなくなりますように。
何年も祈り続けたら
神様って優しいねんな。
あたしの願いを聞いてくれよった。
あいつが死んだ。
酒に酔っぱらって
階段から足を踏み外して
あっけなく死んだ。
あたしたちは
誰も泣かんかった。
当たり前や。
やっと地獄から解放されたんや。
これでやっと
みんな幸せになれる。
そう思っとったのに……
母)あんたは東京へ行き…
◇)え??
母)ほんまに…ごめんな…
母ちゃん一人では
健二郎と◇…
二人を育てていくんは無理やねん…
あたしの頭は真っ白やった。
お兄ちゃんと…離れる…?
母)あんたは…東京の
おばちゃんの家で暮らした方が
絶対幸せになれる…
◇)おにい…ちゃんは…?
母)健二郎は…
高校卒業まで母ちゃんが
面倒見る、ちゃんと。
◇)……っ
いきなり東京で暮らすことよりも
お母ちゃんと離れることよりも
何よりも一番悲しいのは
お兄ちゃんと離れることやった。
いやや…
離れたない…
お兄ちゃんと離れたないねん…
この気持ちが…
ただの兄妹愛やないことは
自分でも少し気付き始めてた。
せやけど…
母)ほんまに…ごめんな?
何度も何度も
身体を小さくして謝るお母ちゃんに
あたしは嫌やなんて言えへんかった。
東京のおばちゃんの家に引っ越す前の晩…
あたしはお兄ちゃんの布団にもぐりこんだ。
◇)おにいちゃん…
健)どうした?
◇)ぎゅって…してくれへん?
健)……っ
お兄ちゃんは優しく抱きしめてくれた。
それだけで…
涙が出そうやった…
健)おばちゃんち行っても…
元気で頑張るんやで。
◇)……っ
健)いつも笑ってるんやで。
◇)……っ
健)兄ちゃんは…
お前の…笑顔が……っ
お兄ちゃん…?
健)世界で一番…大切やねんっ…
お兄ちゃん…肩が…震えてる…
健)離れても…
◇)……っ
あたしも涙が溢れ出す。
健)お前は…一生
俺の宝もんや。
◇)…おに……ちゃっ…
声をあげて泣いても
もう殴りにくる人なんておらんのに
あたしはお兄ちゃんの胸に
顔を押し当てて
声を殺して泣いた。
お兄ちゃんも泣いてる…
せやのに…
ずっと優しくあたしの頭を撫でてくれてる。
◇)あたし…っ
お兄ちゃんの…宝もんなん?
健)せやで…?
◇)世界で一番…大切って…
健)そうや。
◇)彼女が…出来ても…?
健)何を言うとんねん…
だってお兄ちゃんは
来年もう中学生になる。
こんな優しくてカッコイイんやから…
きっと彼女なんてすぐ出来てまう…
そしたらきっと…
◇)あたしのこと…忘れ…っ
健)あほっ!!!
ギュッ…
健)忘れるわけないやろ。
彼女なんかいらんわ。
◇)え…っ
健)俺はお前が一番大事やねん。
◇)……っ
健)さっきも言ったやろ。
それは一生変わらへん。
◇)……おに……ちゃ……っ
また涙が溢れる…
お兄ちゃんが…好き…
こんなに好きやのに…
◇)離れたく…ない…っ
あたしは初めてそう言った。
ずっと押し殺してきた本音。
お兄ちゃんの側にいたい。
健)絶対…迎えに行くから。
◇)ほんま…?
健)はよ大人になって…
お前のこと守れるようになって
絶対…迎えに行く。
◇)……っ
お兄ちゃんは…
ずっとあたしのこと
守ってくれてたよ…
◇)お兄ちゃん…待ってる…
健)ん。
◇)お兄ちゃん…
健)ん?
◇)好き。
健)……
◇)好きやねん……
健)……
◇)お兄ちゃんも…
あたしの…宝物…やねん//
健)……っ
そう言ったあたしを
優しく抱きしめる
お兄ちゃんの体温があたたかくて
あたしは泣きながら…
そのまま眠りに落ちた…。
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