サイド イフェクツ-薬の鎖-
第1章 DATA1 播野医師
「通院期間は六ヶ月だったか。今日あたりまた採血して、それから新しい薬をもう一種類出してやろうかとも思ってたのに……。予想しない人にこうやって毎回ながら裏切られるんだ。」
(秀でた才能を持つ人物の末路はいつも惨めなのか……いや…………)
いや、違う、自分は決して大衆から抜きん出ているほどの才能を持った男ではない、また人から称讃されるべき人物ではない、なんて事は播野自身が微塵もなく疑うところはなかった。医師という大勢の人々から一目置かれる職業でありながら、播野は医者として今、莫大な金を得ていることに自ら軽蔑しているようでもあった。難関国立大を次席で卒業し、精神医学の分野に心血を注ごうと努めた若き日の診療室の自分が、一瞬脳裏を過ぎった。だが、五十代に入った彼にはもうそんなことはどうでもよかった。
(私は罹病の患者を精魂込めて救ってあげるどころか、今は………………)
これ以上、自分を責め続けるのは良くない、それはもうずっと前からわかっている。しかし、年齢を重ねる毎に、播野は医師として保つべき品格や患者に対する自身の接し方疑問を持つようになっていったのであった。
(まぁもちろん、クライアントも十人十色ではあるが…)
“ピーーッ”
午前八時四十分。診察時間が始まってからも絶えず、内面にいる誠実な自分と対峙していた時、患者が来た事を知らせる合図の音が鳴った。播野はパソコンにすぐ眼を移し、診察予約の一覧が記載されているファイルを開いた。
「え~と、今日最初のクライアントは山橋さんか」
播野の表情は凛と引き締まり、昨日と同じいつもと変わらない診察がまた今日も始まろうとしていた。
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