ショートホラーストーリー
第1章 「雨」
今日。
長い間とりかかっていた企画がやっと一段落したところだった。
気がつくと、すでに翌日になっていた。
深夜の2時。
駐車場の車には、まるで雨が降った後のように、びっしりと夜露がかかっていた。
ワイパーを何回か作動させ、フロントガラスの視界を確保した。
よくなった視界に、たったひとつしかない駐車場を照らすライトが目に入った。
さらに、目に入ってはいけないものまで目の端に入ってしまった。
女がいた。
ライトから少し離れたところに、白いコートを着て、立っていた。
ライトの明るさから逃れて、その顔ははっきりとは見えなかったが、それが彼女だとぼくには判った。
彼女の目は、真直ぐにこの車に注がれていた。
もっと詳しく言えば、車の運転席に座っているぼくに、注がれていた。
彼女――中畑佳子だ。
つい最近まで付き合っていた。詳しく言うと、一ヶ月前まで。
いや、婚約までしていた。
しかし、今そこにいることはあり得ない。
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