俺様王子の恋愛街道
第1章 プロローグ~俺様王子の悩み事~
青年は執務机の上の日記帳を睨んでいた。
壁に掛けられた白いジャケットは胸の部分に大きく王家の紋章が刺繍されている。
絹の薄いシャツ(襟詰めのもの)を着ていたが、暑いので、袖はきちんとまくっている。
この国特有の栗色の長い髪は、高い位置で、一つに束ねて、下ろしている。
ここは大陸の西に位置するスタッピア王国。温暖な気候な今は、少し動くだけで汗が滲む。
机の端には、昨日の夜中に処理した書類の束が、これでもかというくらい積み上げられている。錘(おもり)で押さえているが、窓は開いているので、時折吹く風によって、ぴらぴらと裾が舞い上がる。
インク壷が三つ、羽根ペンが二本、ペンナイフが一本、机の端に転がっていた。 書いてはペンを止め、書いては、頬杖を付き、落ち着きがない。しまいに、書きかけてとうとう立ち上る。
この人物こそ、スタッピア王国第一王子である、ウォーレン・ディア・スタッピアだった。
ウォーレンは眉根を寄せ、日記帳を閉じる。
(ああ? 俺が欲求不満だと?)
認めたくないが現実であった。
そもそもウォーレンが日記を書いたのは今日が初めてである。幼馴染みの伯爵家の子息・トールに「最近溜息が多いですよねえ」なんて言われて、反論したのが切っ掛けだ。
しかし、反論したのは良いものの、改めて考えてみると、確かに多いかもしれないと思い、巷で流行っている、日記というものを書いてみることにしたのだ。
(しかし、あれは誰なんだ)
悩みというのは、こうだった。
ウォーレンは最近よく夢を見る。
堅物なウォーレンには珍しく女性の夢だ。大地の女神のような人だ、とウォーレンは思っている。細かい印象などは曖昧で、幼い、と感じることもあるし、老婆のようだ(失礼だが)、と思うこともある。
だが、毎回、同じ人物だということは、直感で分かっている。
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