称号を【霊視の紳士】にしたまま、二人乗りでの帰り道、ポツポツと幽霊が見えた。
「ちょっとアンタ!」
女と思われる声をかけられた。
チャリを止めて振り返る。
「何か用ですか?」
「やっぱりアンタ、アタシが見えてるのね」
「あー、幽霊やね。見えるで」
「この方、幽霊なのですか? 怖いですわ‥‥」
お彩さんが、オレの後ろに隠れる。
「その称号‥‥アタシを成仏させてくれへん?」
距離を詰めて上目遣いで頼んでくる。
オレと同じアラサーくらいやけど、ちょっと年上かな?
フレームレスの眼鏡をかけてる。
初恋の人とダブッて見えるのは気の所為やろか?
「まあ、オレに出来る範囲やったら手伝うけど、何が心残りなん?」
「あんな‥‥夢への志し半ばで、交通事故に遭ってな。そんでな‥‥」
夢、かぁ。
オレも叶えたい色々な夢が、まだまだある。
そして、ヤバイ、この話は絶対長くなる。
「あ、そこのファミレスに入ろか。寒いし」
「何、ナンパ?」
「話しかけてきたん、そっちやないですか! しかも、オレは彼女を連れてるんですよ。あ、ちなみに名前は? オレはノリ」
「わ、わたくしは‥‥お彩と申します」
お彩さんは、まだオレの後ろに隠れながらや。
「私はアズサ」
「え!?」
「何驚いてるん?」
「あ、いや、なんでもないです」
オレの初恋の人と同じ名前とか‥‥。
*
ひとまず、ファミレスに移動。
「ふぅ、暖(あった)かい」
「お一人様ですか?」
そら、普通の店員さんには見えんわな。
「はい。あ、できれば四人席で‥‥空いてます?」
「はい、こちらどうぞー」
店員に連れられて窓際の四人席に案内される。
「ご注文決まりましたら、ベルを押して下さいませー」
「ありがとう」
店員さんも一旦消えたし、今のうちに。
「何か飲みます? 食いもんでもええですけど」
「ほな、ダージリンで」
「ほな、オレも‥‥って一人で2杯頼むんは変やな。カフェオレにでもしとこか。お彩さんは?」
「わたくしは玄米茶で‥‥」
ベルで店員を呼んで注文。
店員は復唱しつつ、オレの称号に気付いたっぽい。