雪天使~お前に捧ぐカノン~
第2章 act,1:カジノ
ある日の昼下がり。
下校後、我が家の自分専用の衣裳部屋にて着替えを済ませて廊下に出ると、彼は弧を描く白大理石の階段を駆け下りた。
「おやお坊ちゃま。お出掛けですか?」
黒のタキシード姿の、ティーセットを手にした執事と思しき老紳士が、側を足早に通り掛かる少年にさらりと声をかける。
「ん」
短く答えただけで歩調を緩める事もなく歩き去る少年へ、更に執事は首を伸ばしながら声をかけた。
「目的地まで、御車で御送り致しましょうか!?」
すると少年は後ろで一つに束ねた長い黒髪をなびかせながら、クリッと体ごと振り返りつつも尚、そのまま後ろ歩きをしながら答えた。
「いやいいよ。どうせ暇潰しで適当にその辺、ぶらついてくるだけだから」
そう言うとまたすぐに、体を元の進行方向に戻し歩き続ける。
「お気を付けて行ってらっしゃいませ!?」
美しくスーツを着込んでいる老執事に背後から声をかけられ、“お坊ちゃま”と呼ばれる割にはそれらしくは見えない格好の少年。
黒のミリタリー風ダウンロングコートに、シルバーカラーでファーのロングマフラーを首にかけた、ラフなファッションスタイルだ。
少年は振り向く事無く片手をヒョイと軽く上げて返事の代わりにすると、執事の前からそのまま歩き去った。
そうして少年は豪華な建物の玄関から飛び出すと、そのまま脇にある車庫へ向かい、ズラリと並ぶ高級車と高級バイクを前にして、ゆっくり品定めをする様に腕組みをしながら視線を流す。
車整備士兼運転手を務めている車庫管理人の男が、車庫の片隅にある管理室から頭を低くしながら出てくると、言い辛そうに口を開いた。
「……大変申し訳御座いませんがお坊ちゃま……まだ未成年ですし、無免許ですので運転は……」
と言う男の言葉を無視したまま暫く思案していた少年はよしと頷くと、指差す。
「あのシンプルな赤のバイクを!」
「ですが……」
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