雪天使~お前に捧ぐカノン~
第7章 act,6:コンプレックス
翌朝目を覚ますと、カノンはまだ寝ていた。
ふとカノンの眠るベッドの脇を見ると、もう仕上げに掛かっている作りかけの掛け布団が置いてあった。
昨夜の夕食後ロードは、以前の売女の保護者の時以来の久方振りのご馳走に満足してか、至福のまどろみに誘われるかの如く先に眠りに落ちた。
そしてシャルギエルは自ら作ったサングリアを飲み、それにミックスされたワインの酔いが手伝ってか、ロードの寝顔に促がされるように続いて睡魔に引き込まれたらしい。
残されたカノンは恐らく推測するに、夜遅くまで布団作りに励んでいたのだろう。
昨日の凍える寒さはどこへやら、打って変わって今朝は朝日が眩しい秋日和だ。
ふと横を見るとロードがいない。
「やっぱお子ちゃまの朝は早ぇな……ってか今何時だ」
小さく呟きつつ腕時計を見ると七時前だった。
ひとまず一度家に帰るか。昨夜すっかり家に電話連絡し損ねたし。まぁ、いつも通り適当にシティーホテルで夜を明かしたとでも言って、誤魔化せばいい事だが。
そんな事を思いながら、携帯電話を取り出して見ると圏外だった。
どっちみち電波飛ばなかったか。さすがはスラム地区。
デジタル設備が整っている筈も無い事など、普段から裕福三昧のシャルギエルは予想もしていなかった。もっとも、SCC館内は別だろうが。
ふと見ると壁のフックに引っ掛けてある、自分のコートとマフラーに気付いた。
ベッドから立ち上がりそのコートを取り上げると、小さく呟きながらコートをそっと寝ているカノンの上に被せてやった。
「マフラーもこいつも、ロードとお前にやるよ」
すると寝床からくぐもった声が漏れた。
「……帰るのかい?」
「何だ。起こしちまったか。ま、ひとまずな」
シャルギエルは言いながら、カノンのベッドに一旦腰を下ろす。
カノンはウンと横になったまま伸びをすると、まだ若干まどろみ気味に言った。
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