人形の見る夢
第5章 琥珀
その男性が初めて店に現れたとき、お客にはなりそうにないと思った。複数で来店した客は商品を買わない。そんなジンクスがあった。
「うわ、すげー値段」
「何年ローンだこれ。寿命よりローンの方が長くなるよ」
高いに決まっている。
人形の姿かたちは完全に人間と同じだし、思考もある。
安くては困る。
その男性は三人で来ていた。
興味本位で足を向けた冷やかしなのは間違いなかった。
けれど、その男性は一体の人形の前で唐突に足を止めてガラスケースを覗き込むと怪訝そうな顔をした。
聞こえている…。
あの男性はあの子の声が聞こえている。
『出して、ガラスケースからだして』
人形は琥珀の目と髪をした華奢な体つきの人形だった。
豪華な顔やウサギみたいな奇異な色彩を持った人形も多い中で、整った顔立ちをしながら目立つタイプではないからか、これまで売れ残ってきた子だ。
「人形って喋るのか…」
「当り前だろう。人間と違うところはないというぞ。お前、その人形買うのか」
「買わないよ。そうじゃなくて、」
「だよな。高すぎる。けど、夢だよな。こんな可愛い子はべらせて生活できたらさ」
「もう帰ろう。仕事だ」
「なんだよ。つまらないな」
男性は足早に店を出て行った。
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