人形の見る夢
第6章 撫子 前半
「黒い瞳に黒い髪で、身長は160㎝程度。痩せた綺麗な人でした。彼女に似た人形が欲しいんです」
その男性は1枚の写真を持って店に現れた。
「この方は?」
その男性は1枚の写真を持って店に現れた。
「この方は?」
「付き合っていましたが、振られてしまいました。
彼女のことが忘れられません。
けれど、彼女はもう別の男と幸せな人生を過ごしています」
男性は色白で、手足は細いのに腹部がだらしなく弛んでいるのが服の上からでもわかった。年の頃は30歳を越えたぐらい。
「黒髪に黒目の人形は、実はあまり人気はないんです。どうしても実在する人間の容姿よりは派手なものが好まれる傾向にありましてね。そのため、あまり数も多くはありません」
「そうなんですか」
「探してはみます。けれど、顔形まで同じ人形が出てくる可能性は低いでしょうね」
男性は肩を落として店を後にした。
「ねえ、マスター」
「どうしたんだい?」
「オーダーメイド出来ることを、説明しなくてよかったの?」
「あの人は実在した人間の代わりを人形に求めている。髪や瞳の色はほぼ完全に制御出来るけど、顔形までは今の技術では設定できないからね。まして、性格は似せようがないし」
「人形はそもそも人間の代わりだけれど、特定の誰かの代わりにはなれないわね。人形にも自我があるし
」
「あの人が本当は何を望んでいるのかにもよるけどね」
マスターは仕入れ先で探してみるよ、とそう言って私を抱き上げた。
あの男性のように、要望を持って店を訪れる客は少なくない。
少女がいい、幼児の姿がいい。
可愛い子がいい、綺麗な子がいい。
従順な、あるいは気の強そう子がいい。
人の好みは千差万別、でも人形を求める人の心は誰もが同じように歪んでいる…。
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