俺様王子の恋愛街道
第2章 第一章、俺様王子と不機嫌の種
「あれ? 殿下ってば、どうしたんです~? うな垂れて」
軽いノック音の後に、従者のトールが書類の束を抱えて、執務室に入ってきた。
ウォーレンは顔を上げる。
頭の高い位置で一つに結った真っ白な髪は、突然変異によるものだと、ウォーレンは聞いていた。女性が夢見る騎士のように、肌は白く、女のようだ。本人に言うと怒るのだが。
しかし、身体は、決して華奢ではなく、背は高い方で、しなやかな仕草からは想像がつかないほど、鍛え抜かれていた。が、全体的な線は細い。
ウォーレンの三歳上のくえない従者。
騎士の普段着である、青空を濃くしたような色の軍服を着ていた。
トールが、自分の執務机に持っていたものを、ドンと音を立てて置き、ウォーレンの方へ歩いてくるのを黙って眺める。
「また、随分な量だな」
「ええ、殿下は仕事が速いからと。はい、陛下からの恋文です」
「あのクソ親父」
トールの曇り空の瞳が曖昧に弛む。
ウォーレンは、トールから、一枚の紙を受け取る。
それは正しくは、ガートン王の従者・スカイからで、一言「お世話をかけます」とあった。
「相変わらず、達筆だな」
まあ、いいか。と、ウォーレンは呟くと、目の前の壁に気付く。
「ん? なんだよ」
「いいえ? 殿下にも素直なところがあるんですねえ」
トールは、にこやかな表情を浮かべて、机の上とウォーレンの顔を見比べている。
「何が……」
トールの視線の先を辿ると、日記帳に行き着いた。慌てて、ウォーレンは日記帳を閉じる。
「別にお前に言われたからじゃないからな」
「わかってますよ~」
トールの口角が面白そうに上がる。
「殿下の悩みはそこまで深刻だったんですねえ。何て書いたのですか?」
「教えるわけないだろ」
すると、トールはふふふ、と意味ありげに笑った。
(コイツ、後で覗き見するつもりだな)
「厭ですね~、私にそんな趣味はないですよ」
東に大きく開け放った窓から、穏やかな風が吹く。真夏のスタッピアは、乾燥していて喉が渇くのだ。ウォーレンの口内は、干からびかけていた。
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